
作詞家、ラジオパーソナリティー、コラムニストとして活躍するジェーン・スーさんによるAERA連載「ジェーン・スーの先日、お目に掛かりまして」をお届けします。
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なにもしない週末を久しぶりにやりました。家から一歩も出ず、ソファとベッドを往復するのみ。いやあ、やっぱり必要だよ、これ。
やれるなら誰だってやりたいですよね。子育て、家事、介護があると、そうはいかないもの。私は恵まれている。
さて、先日のこと。インスタグラムの月イチ質問コーナーに「独り身だから楽だよね、と言われるとモヤモヤする」というメッセージがきました。迷わず、「介護が必要な家族がいるのでもない限り、自分以外の人間の都合に合わせて動かなくてもよい点では、圧倒的に楽だと思います。突然発熱する人のいない暮らし! 自分とは異なるルールで暮らす大人のいない生活!」と答えました。パートナーと協力しながら、もしくはひとりで子育て、家事、仕事までしている人たちは、私から見たらスーパー人間です。
メッセージ送信者はおそらく、誰かと協力し、頼りあって生活できるわけではない不安もあると言いたかったのかもしれません。全部ひとりでやらなきゃいけない気負いが私にだってあったことはある。でも、気づけばその不安は消えていました。消えたというより、1人だろうが5人だろうが、それぞれに良いこと、悪いことがあるという当たり前が、ようやく理解できるようになったのだと思います。
昨今、この「それぞれに長所と短所がある」という当たり前のことが共有しづらくなっているような気がします。例えば誰かが苦労を愚痴ろうものなら、そんなわけはない、こっちのほうがもっと大変だ、そんなことで愚痴るのは贅沢だ、わがままだと短絡的な意見が飛んでくる。SNSやニュースにつけるコメントなど、匿名の場で散見されます。隣の芝生が青く見える、のレベルを優に超えているのです。
メッセージをくれた方は違うと思いますが、「割を食っているのは絶対に自分のほう」という強い思い込みが多くの人にあるように見えます。

これ、政治の問題もありますが、タイパだコスパだと、なにより効率を尊ぶ風潮のせいだとも思います。損をしないためのライフハックが世の中にはあふれていますから。
損し続けるのは考えものだけれど、損したり得したりの繰り返しだと思うんだけどなあ、人生。
時代が損得勘定に過敏になった結果、損をしていると考える人が増えたのだとしたら、皮肉な話ですね。
※AERA 2024年10月21日号