卓球部は部員が少なく、練習をたくさんできたおかげか市の大会で優勝し、学校が沸いた。すると、入部希望者が一気に増える。だが、大勢が練習するには、卓球台が足りない。買い増すにも、学校の予算に用意されていない。すぐ、閃いた。

「ここは、何でもつくっている街。卓球台を安くつくってくれる町工場も、あるはずだ」

 東大阪市は家電製品メーカーなどの下請け、孫請けの町工場が集まる「日本のものづくり」を支えた街。電話帳であたりをつけた町工場を訪ね、事情を話すと、破格の安値でつくってくれた。部員たちから50円、100円と集め、わずかでも支払って、みんなでたっぷりとラケットを振る。そんな話をしながら、2度、3度と頷いた。

映画づくりで知った「構想」の大切さが製品開発に重なる

『源流Again』で、大きな転機を迎えた母校の府立布施高校も訪ねた。1年生の後半に映画研究会へ入り、映画を観て感想や評論めいた原稿を書き、学校新聞へ出す。多い月は30本以上も観て、「将来は映画監督になりたい」と思っていた。

 鮮明に覚えているのは、文化祭で8ミリフィルムの映画をつくったときのことだ。まず「観る人は、何を求めているのだろうか」と考えて構想を練り、どうすればそれができるかへと進む。この経験が、事業家としての『源流』となった。

 父の町工場を継いだ当初は、ただ発注者の指示通りにつくる日々が続く。そこから「一生、下請けで終わりたくない」との思いが募る。やがて自社製品の生産へ踏み出すとき、世の中が「こんなものがあったら、便利だ」と思うものを、開発時に描く。8ミリ映画をつくったときの視点と、重なる。『源流』からの流れが、姿を現していた。

震災の停電で決断LEDの大増産へ中国・大連へ飛んだ

 真珠の養殖用に軽くて作業しやすい浮き球、探し物がみつけやすい透明な収納ケース、鉢植えを根腐れさせない水はけがいい園芸用品、清潔さを保ち愛犬が気持ちよく暮らせる犬小屋。すべて「こんなものがあったら便利だ、と消費者に思ってもらえるだろう」と考え、手ごろな価格で実現させた。

 2011年3月の東日本大震災で、多くの家庭や会社が停電を余儀なくされ、省電力がいちだんと国家的課題となる。そこで大量生産を決めたのが、照明器具用のLED(発光ダイオード)だ。電力消費が少なく、電気代が抑制できて、耐久性も高い。この普及こそ世の中が求めていることだ、と決断した。

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