渋谷駅に掲出されたダヴの広告(撮影/板垣聡旨)

広告業界の「間違ったセオリー」

 実際、原田氏のゼミに参加する学生や、原田氏の研究所で働くインターン生からも批判の声が上がったという。「あえて(美容の)知識を披露して差別を助長している」「私たちはそんなに厳しい基準で(美を)考えていない」など、批判した学生は女性がほとんどだった。SNSで広告を批判しているアカウントの多くも、20代だと思われる。

 若年層が特に批判的だった理由について、原田氏は「ダヴは若者心理をわかっていない」としたうえで、こう指摘する。

「今、広告業界では『若い人たちはみな社会問題に関心があるので、それに合わせた広告を打とう』という間違ったセオリーが広まっています。ダヴはそれをうのみにしたのでしょう。しかし、それは間違っていて、若い人たちの大半は自分の身近で、自分が興味を持っていることしか知ろうとしません。自分と似たような価値観のユーザー同士で、同じようなニュースや情報を共有するエコーチェンバーの世界に生きているからです。韓流アイドルが好きでも“推し”のアイドルのことしか知らない、などは当たり前で、昔より興味の幅は狭まっているのです」

 10月10日、広告が掲載された渋谷駅で記者は若者がどう反応するのかを定点観測してみたが、ほとんどは炎上した広告であることも知らないようで、見向きもせず素通りしていた。つまり、この広告ですら“興味がない”若者が大半ということなのだろう。

 ダヴを展開するユニリーバ・ジャパンに炎上騒動について文書で質問したところ、期日までに回答はなかった。

 最後に、原田氏はこう語る。

「ルッキズムは社会問題ですし、若者にそれを啓発しようという広告の狙いはとても素晴らしいものだと思います。ただ、表現が直接的すぎました。ダヴは、NGな表現をダイレクトに伝えるのではなく、生活の一環に社会問題が潜んでいるんだよとストーリー仕立てにして、ルッキズムがなぜいけないのかを伝えるべきでした」

 容姿への価値基準というセンシティブなテーマを扱う広告だからこそ、より慎重な表現を模索する必要があったのだろう。

(AERA dot.編集部・板垣聡旨)

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