イスラエルとイランの緊張の高まりで、新たな中東危機が危惧されている。11月上旬の米大統領選を前にイスラエルがどう出るのか。世界経済も揺るがしかねない深刻な事態だ。AERA 2024年10月21日号より。
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イスラム組織ハマスによるイスラエルへの2023年10月7日の越境攻撃と、その後のイスラエル軍の報復攻撃が始まって1年を迎える中、イスラエルとイランの緊張が高まっている。イスラエルが9月下旬、イランの支援を受けるレバノンのシーア派組織ヒズボラ指導者のナスララ師を殺害した。10月1日にはイランからイスラエルに180発超のミサイルが発射され、イスラエルによるイランの油田や核施設への報復が選択肢に挙がっている。新たな中東危機や中東戦争への危惧が広がっている。
10月7日、「イランが初の核実験をした」という真偽不明の英語ニュースが世界に流れた。「5日、イラン北部の砂漠地帯の地下10キロでマグニチュード4.6の地震があった。イランによる初めての核実験との見方が出ている」という内容で、タイムズ・オブ・インディアやヒンドゥスタン・タイムズなどインドメディアが複数のSNSの記述を引用して報じた。
イランの脅威煽る情報
情報源はイランの半国営通信社メフル通信とする。確かにメフル通信は6日付で、「イラン北部のセムナン州で5日夕、地下12キロで、比較的強いマグニチュード4.4の地震があった」との記事を掲載したが、核実験との関連には言及していない。地震は米国地質調査所(USGS)も記録している。
引用されているSNSの記述は「昨日のイランの地震は核実験という噂がある。2013年の北朝鮮の地震は、後に核実験だと判明した」と、北朝鮮と結びつけて信憑性をだそうとする。「典型的な地震波や余震がないことから、疑惑を引き起こしている」との指摘も出た。
一方でロシア国営タス通信はウィーン発でロシアの国連機関担当幹部の発言として、「10月5日のイランの地震について、核実験との臆測があったが、信号を分析し、記録された波形はイランのこれまでの地震と一致するという」として核実験説を否定した。
欧米の主要メディアには流れない情報について、イランの友好国ロシアのタス通信が情報を否定する報道を出したのは、イスラエルによるイランへの報復が注目される中で、「イランの核脅威」を煽る情報が広がっていたことが推測される。
「イランの初の核実験」疑惑がSNSを契機として広がるのも、イランとイスラエルの熾烈な情報戦の一部ではないかと勘繰りたくなる。一方でイランがこのまま核開発を進めていけば、いつか現実になる日が来ることも否定できない。