イランの核開発への警告はネタニヤフ政権が繰り返してきたが、特にハマスの越境攻撃の後、強調されてきた。23年8月11日にはイスラエルの英語メディア「ジェルサレム・ポスト」は「イランは初めて核兵器の実験に急速に動いている」とする見出しで、欧州諸国の情報機関の報告書をもとに、「イランは20%、60%の濃縮ウラニウムの備蓄を増やしてきた。核兵器に必要な90%の濃縮に使用できる」と書いている。
イラク戦争報道の教訓
イランの核脅威が注目されたのは、イランによるイスラエル攻撃の直後に行われた米国副大統領候補のテレビ討論だった。主催するCBSの司会者が最初の質問で、「イランは核兵器開発に要する時間を劇的に縮め、今では1~2週間となっている」として、二人の副大統領候補に、「イスラエルによるイランへの先制攻撃に支持か反対か」と質問した。
民主党候補のウォルズ氏は「イスラエルが自衛権を行使することが基本」としながらも先制攻撃の是非には答えなかった。一方の共和党バンス氏は「自国の安全を守るために何が必要と考えるかはイスラエルの問題であり、われわれは同盟国の悪者との戦いを支持する」と答えた。
それぞれの副大統領候補の発言は、バイデン大統領がイランの核施設への攻撃は「支持しない」と表明し、トランプ前大統領は核施設を攻撃すべきだという考えを示したことを反映している。
この討論会について、ニューヨーク・タイムズが即座に反応した。複数の核問題専門家の分析を引用して、「イランが核兵器を入手するには、数週間ではなく、数カ月、または1年はかかり、司会者の質問は虚偽の説明だと語った」と書いた。
イランの核の脅威は差し迫ったものではないと釘を刺したニューヨーク・タイムズの反応は、2003年のイラク戦争の開戦で、イラクの核の脅威を強調する当時のブッシュ政権に対して、米国の主要メディアが専門家の懐疑的な見方を軽視し、政府の言い分を中心に報道したことへの教訓を思い起こさせる。ニューヨーク・タイムズやワシントン・ポストはイラク戦争開戦支持の世論形成に協力する形となり、戦争後、イラクの核疑惑が否定されたことで、読者に謝罪する事態になった。