権力維持のための戦争
イランの攻撃の同10月1日にイスラエル軍はレバノンへの地上侵攻を開始した。9月中旬にイスラエルの情報機関モサドによると見られているヒズボラが使う通信機器の一斉爆破で、子どもを含む30人以上が死亡、3千人以上が負傷した。その後、イスラエルはヒズボラの拠点があるレバノン南部やベイルート南部を砲撃・空爆し、ナスララ師を殺害、さらに地上侵攻へとエスカレートさせている。
イスラエルでは開戦1年を迎えたガザ戦争が行き詰まり、ネタニヤフ首相は停戦を拒否し、軍駐留と戦闘継続を主張している。人質を取られている家族を中心にイスラエル国内の首相批判が強まり、一方でイスラエル軍からも戦争の出口が見えないことに不満が強まった。
ネタニヤフ首相はガザで停戦となれば連立離脱を公言する極右政党を抱えている。首相は汚職事件で起訴されており、政権を失えば刑事被告人として裁かれる立場だ。レバノンへの戦争拡大は、首相が権力維持のために、ガザからイスラエル国内の関心をそらせて新たな戦争状態を作り出し、国民や軍の不満や批判を封じ込める手法と考えるしかない。
イスラエル軍は地上侵攻を「限定的」とするが、戦争が簡単に終わらないことは自明であり、ヒズボラからのミサイル攻撃が繰り返されることで、ミサイル防衛システムで迎撃できても、戦費調達での経済の負担、治安悪化での経済の悪化、国民の海外への脱出、ハイテク技術者などの海外流出、観光産業への打撃など、国内の悪影響は深刻となり、さらに国民の不満が強まるのは避けられない。
国内の厭戦気分が高まれば、ネタニヤフ首相としてはさらに戦争の危機を作り出し、国内の批判を封じ込めるしかなくなり、その延長上に「イランの脅威」がある。
米大統領選を前に
イランは23年10月7日以降、イスラエルを非難してきたが、実際の行動は抑制されたものだ。イスラエル寄りだった前トランプ政権の後、イランとの融和を目指す民主党・バイデン政権との関係を崩したくないという意向が働いているものと見られる。