中江有里(なかえ・ゆり)/1973年、大阪府生まれ。法政大学卒。89年、芸能界デビュー。2002年「納豆ウドン」でBKラジオドラマ脚本懸賞最高賞受賞。著書に『万葉と沙羅』『水の月』など(撮影/写真映像部・和仁貢介)
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 AERAで連載中の「この人のこの本」では、いま読んでおくべき一冊を取り上げ、そこに込めた思いや舞台裏を著者にインタビュー。

【写真】現代的なテーマを含みながら親子の成長を描く『愛するということは』

 若い時に不実な男とのいさかいで罪を犯した里美は、家族に背を向けられ、幼い娘の汐里と2人で暮らし始める。しかし、前科のために仕事はうまくいかず、結婚式の祝儀泥棒をしてしまう。ホテルで母親に言われた通りの演技をする汐里。母娘関係、再犯防止、不妊治療など、現代的なテーマを含みながら親子の成長を描く長編小説『愛するということは』。著者の中江有里さんに同書にかける思いを聞いた。

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 俳優、作家、書評家の中江有里さん(50)の最新作『愛するということは』は、さまざまな愛の形を考えさせる長編小説だ。

「愛するとはどういうことかは、とっても大きな主題で、私も答えられないから本を1冊書いてしまったわけなんですけど、愛にはいろんな形があると思います。一緒にいることだけではなく、突き放すこと、離れることが愛になることもある」

 世間では一緒にいることが理想の愛と思われているが、そうとは限らないと話す。

「離れていても思いやっていることってありますよね。誰かのことを本当に愛してるって、自信を持って言える人がどれだけいるのかなって思うんです」

 小説の主人公は母親の里美と娘の汐里。親子は近づいたり離れたりしながら、何度も関係を結び直そうとする。

「私なりの答えとしては、人は個でなければ結び合えない。親子でも依存し続けると潰し合ってしまう。お互いが自分で立つことができて初めて、お互いを認め合えるんじゃないかなと思います」

 里美は前科があることから孤立して困窮し、結婚式の祝儀泥棒を働いてしまう。

「一つ失敗をすると次のチャンスを与えられない。許容されない世界になりつつあると感じています。でも、誰かをだましたとか、心を傷つけたとか、見えない罪はみんな背負っていると思うんですよね」

『愛するということは』(1980円〈税込み〉/新潮社)若い時に不実な男とのいさかいで罪を犯した里美は、家族に背を向けられ、幼い娘の汐里と2人で暮らし始める。しかし、前科のために仕事はうまくいかず、結婚式の祝儀泥棒をしてしまう。ホテルで母親に言われた通りの演技をする汐里。母娘関係、再犯防止、不妊治療など、現代的なテーマを含みながら親子の成長を描く長編小説

 中江さんは最初の本を出してから18年、テレビや映画の仕事と並行して、小説を書き続けてきた。

「女優業ももちろん面白いんですけど、自分の年齢とか性別に合った役柄を与えられるので、できる役が限られるんですよ。小学生の男の子にはなれない。一方で小説を書くときは、あらゆる人物に自分の感情が入っていくので、何にでもなれる。そこが小説の自由なところです」

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執筆は自宅のリビングルームで