社長になったときは、別の形で「準備力」を発揮する。人口減や高齢化が進むなか、ライフの成長力がどこにあるかを示さないと、従業員はわくわくしないし、株主も納得しない。ヒントを得るため、ライフの全店で半径1キロ以内に住む人々の食料品への支出額の調査を依頼した。すると、1人当たり年間に平均で約30万円、うちライフで使ったのは約10%、あとはスーパーに限らずコンビニやドラッグストアなどの他店だ。

 シェアが予想よりも少なくて衝撃を受けたが、同時に「まだ9割は成長余力がある」と考えた。計算で言えば、市場の規模が同じなら、シェアを10%から11%に上げることができれば、売り上げは1割伸びる。店長以下にそう説いて、「何が欲しいか」という客の声を集め、店を改装して品揃えも変えた。

 2013年には、大阪市淀川区の大阪本社の隣に「セントラルスクエア」の1号店を出す。外国産の輸入果物を並べ、生け簀に魚を泳がせ、寿司は店内で握った。このときは、幹部とともに米国のいろいろな店を巡り、「店は買い物に便利なだけではなく、楽しいと思ってもらえるようにしたい」と構想を描く。やはり、始める前の準備に時間を割いた。

 2022年4月に、東京・恵比寿のガーデンプレイスにも開店した。普通の店は来店客を半径が1、2キロとみるが、「セントラルスクエア」では10キロを想定。「欲しい品が、欲しいときに、欲しい場所で、欲しい方法で手に入る」という姿を目指す。いま、「セントラルスクエア」は東西で8店になった。

『源流Again』で、追加で都内のライフ目黒八雲店にも寄った。柿の木坂、自由が丘といった名立たる住宅地に近く、幹線通りに面している。

チェーンストアでも地域の購買傾向から高級チーズ売り場も

 店内に入ると、右手にチーズの特設売り場があり、高級な種類も置いてある。周辺地域には海外生活の経験者や海外旅行好きが多く住み、チーズへのニーズが高いと分かった、という。

 バスケットボールでも、選手それぞれの個性がチームの強みになる。店にも個性がほしい。そこで各店の購買データから客の傾向を「健康志向」「品質重視」「価格にシビア」「簡便」など9類型に分類し、チェーンストアでありながら1店ごとに傾向に合わせた品揃えやレイアウトにする店も始めた。目黒八雲店もその一例。どのスーパーへいっても品揃えやサービスはほぼ同じという「同質化競争」からの脱出が狙いで、「高級チーズ」はその象徴だ。

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捨てられ踏まれたプログラムの表紙に自分のシュート写真