菅田将暉(すだ・まさき、左):1993年生まれ。俳優、歌手。主な出演作に「花束みたいな恋をした」(2021年)、「ミステリと言う勿れ」(23年)など。公開待機作に「サンセット・サンライズ」(25年1月予定)/黒沢清(くろさわ・きよし):1955年生まれ。映画監督、脚本家。主な監督作に「CURE」(97)、「岸辺の旅」(2015)、「クリーピー 偽りの隣人」(16)、「スパイの妻」(20)、「蛇の道」(24)、「Chime」(24)など(撮影/写真映像部・佐藤創紀)※映画「Cloud クラウド」(監督・脚本/黒沢 清、主演/菅田将暉)は9月27日から全国公開
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 映画監督・黒沢清と俳優・菅田将暉が、初めてタッグを組んだ。映画「Cloud クラウド」では、転売屋・吉井の「日常」が、悪意にさらされ、破壊されていくさまが描かれる。AERA2024年9月23日号より。

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――菅田が演じた吉井は、転売によって金を稼ぐ、いわゆる“転売ヤー”だ。黒沢監督は菅田について開口一番、「うまい人でしたね」と言った。

黒沢清(以下、黒沢):本当にうまい。眼差しは非常に強くて硬いんですけど、喋ると柔らかい。計り知れない個性がなんとも魅力的でした。

 吉井は懸命に生きていつつ、だんだん危ないことに巻き込まれていく。心情は脚本には書かれていなかったんですけど、1シーンごとに変化するさまを、トゥーマッチでなく丁度いいところで演じてくれた。僕自身、吉井がどんな感情なのか、いまひとつわからないところも多かったんですが、菅田さんを見て僕自身も知る、みたいなことは多々ありました。

菅田将暉(以下、菅田):吉井としては一生懸命生きているだけなんですよね。なんとなく自分のプランがあって、ちょっと変えたい今日みたいなものと、明日のイメージがある。その連続なので、ひたすらその一つ一つと向き合っていく感じでした。僕としても本当、どうなるかはわからなかったですね。

真面目にコツコツやる

黒沢:吉井はごく真面目に目の前のことをコツコツやる人物です。転売屋って「楽して儲ける」とはかけ離れていて、そうでないとやれない。次から次へと難関を乗り越えていくからこそ、付け込む人が出てきて追い詰められていく。

 終盤には「殺す・殺さない」の争いに発展しますが、菅田さんによって吉井に深い陰影と複雑さが生まれ、「人間はこういう感情の流れなんだな」と撮りながらわかった。途中で飛躍しないといけないかと思っていたんですが、ちゃんと確実にここまでいける、ということがわかった。それはアクションシーンに凝縮されています。

――「楽して儲けたい」「全然楽にならない」「いつからこうなったんだろう」。作中には印象的なセリフがいくつも登場する。不穏さや不気味さが漂う演出も、黒沢監督ならではだ。

黒沢:ラブストーリーは苦手なんですけど、「ここが地獄だ」的なセリフは得意なんですよ(笑)。

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