映画監督・黒沢清と俳優・菅田将暉が、初めてタッグを組んだ。映画「Cloud クラウド」では、転売屋・吉井の「日常」が、悪意にさらされ、破壊されていくさまが描かれる。AERA2024年9月23日号より。
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――菅田が演じた吉井は、転売によって金を稼ぐ、いわゆる“転売ヤー”だ。黒沢監督は菅田について開口一番、「うまい人でしたね」と言った。
黒沢清(以下、黒沢):本当にうまい。眼差しは非常に強くて硬いんですけど、喋ると柔らかい。計り知れない個性がなんとも魅力的でした。
吉井は懸命に生きていつつ、だんだん危ないことに巻き込まれていく。心情は脚本には書かれていなかったんですけど、1シーンごとに変化するさまを、トゥーマッチでなく丁度いいところで演じてくれた。僕自身、吉井がどんな感情なのか、いまひとつわからないところも多かったんですが、菅田さんを見て僕自身も知る、みたいなことは多々ありました。
菅田将暉(以下、菅田):吉井としては一生懸命生きているだけなんですよね。なんとなく自分のプランがあって、ちょっと変えたい今日みたいなものと、明日のイメージがある。その連続なので、ひたすらその一つ一つと向き合っていく感じでした。僕としても本当、どうなるかはわからなかったですね。
真面目にコツコツやる
黒沢:吉井はごく真面目に目の前のことをコツコツやる人物です。転売屋って「楽して儲ける」とはかけ離れていて、そうでないとやれない。次から次へと難関を乗り越えていくからこそ、付け込む人が出てきて追い詰められていく。
終盤には「殺す・殺さない」の争いに発展しますが、菅田さんによって吉井に深い陰影と複雑さが生まれ、「人間はこういう感情の流れなんだな」と撮りながらわかった。途中で飛躍しないといけないかと思っていたんですが、ちゃんと確実にここまでいける、ということがわかった。それはアクションシーンに凝縮されています。
――「楽して儲けたい」「全然楽にならない」「いつからこうなったんだろう」。作中には印象的なセリフがいくつも登場する。不穏さや不気味さが漂う演出も、黒沢監督ならではだ。
黒沢:ラブストーリーは苦手なんですけど、「ここが地獄だ」的なセリフは得意なんですよ(笑)。