<コラム>サザンオールスターズ「ジャンヌ・ダルクによろしく」から溢れ出る不屈のロック魂
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 サザンオールスターズの新曲「ジャンヌ・ダルクによろしく」が、2024年9月18日公開(集計期間:2024年9月9日~9月15日)のBillboard JAPANダウンロード・ソング・チャート“Download Songs”で首位を獲得した。同曲はTBS系スポーツ2024テーマ曲として【パリオリンピック】中継で使用され、アスリートたちの活躍をより臨場感豊かに伝えており、リリース前から多くのリスナーが耳にしていた曲。この曲が2024年夏の思い出として記憶に刻まれている理由は、アスリートならずとも奮い立たされるその強力なサウンドと歌にある。どんなときも聴く者の気分を高揚させて、じっとしていられないほどに感情を揺さぶり、体全体が疼き出す音楽。時代と共に様々な価値観が変わっても、頑なに信念を曲げずに己を貫き通すスピリットを象徴するもの。それすなわち、“ロックンロール”だ。

 「ジャンヌ・ダルクによろしく」の冒頭、聴こえてくるのはオーバードライブのかかった歪んだエレキギターのリフ。ミディアムテンポでどっしりとフレーズを奏でるギターに導かれたドラムのフィルインから、ベース、ピアノ、キーボードが加わる。シンプルな8ビートのようでいて、シンセの装飾音が刻む16ビートが曲をよりダンサブルに体を揺らす。いわゆる王道のロックまたはロックンロールと呼ばれる音楽は、近年世界的にも新譜で耳にすることが少なくなった。そもそも、王道というものがなくなってしまったように思う。なのになぜ、こういうサウンドを聴くと王道のロックと感じてしまうのか? それはサザンオールスターズこそが、60年代~70年代をピークとした洋楽由来の王道ロックを継承しつつ、日本の音楽シーンで長年活動してきたバンドだからではないだろうか。

 もちろんポップスバンドとしての側面も大きいが、サザンの歴史において時代ごとに様々なアプローチを取り入れている中で、ロックンロールにこそ、最もバンドとしての一体感が感じられる。ブルースをベースにした「タバコ・ロードにセクシーばあちゃん」、「Big Star Blues (ビッグスターの悲劇)」、ハードにロックする「ボディ・スペシャルII (BODY SPECIAL)」、「BOHBO No.5」等々。「フリフリ '65」なんかは、セルフタイトルのアルバム『SOUTHERN ALL STARS』の1曲目を飾ったこともあり、デビュー前の学生時代からの“バンドの肝”になっているのはこういうサウンドへの憧憬なのだろうと感じられる。そして、デビューから46年の時が経ち、今やサザンオールスターズの存在こそが日本における王道ロックそのものになったと言えるだろう。

 そんなサザンのこれまでの歴史を背景に生まれた「ジャンヌ・ダルクによろしく」は、デビュー46年、酸いも甘いも噛み分けたサザンが、令和の世にありったけのロック魂を注ぎ込んだ楽曲だ。〈汗と涙のRock And Roll Band 昔話をするようで悪いけど〉〈虹を掴むまで辞めれない 負けてしょんぼりするほどヤワじゃない〉。そう、時代に流されて自分たちの音楽がブレるほどサザンはヤワじゃない。〈ちょいと見た目は頼りない そんなオイラが奏でる“Johnny B. Goode”〉。どんなに自分に自信がなくても、ロックンロールが力を与えてくれる。そして、〈生まれ堕ちたる身の上 歌は平和を奏でる武器でしょう〉と歌う桑田佳祐のアティチュードは、一貫して“ラブ&ピース”。古のロックンロールが持つメッセージ、理不尽な世の中と音楽で戦う不屈の魂を、この曲でも表現している。その歌声は、聴く者の感情を揺さぶり、魂を震わせる。どんなときでも音楽で民衆の心に寄り添い、明日への勇気と活力を与えてくれる。これだから、サザンが放つロックンロールはいつの時代も最高なのだ。

 9月14日23:30からはミュージック・ビデオがプレミア公開され、同日同時間帯に放送されたレギュラーラジオ『桑田佳祐のやさしい夜遊び』(TOKYO FM/JFN系列)の放送中に、なんと桑田自身もプレミア公開に参加した。映像を手掛けたのは、原由子「ヤバいね愛てえ奴は」、サザン「Relay~杜の詩」のMVも担当した新進気鋭の若手監督・小林光大。レトロな質感の映像の中、スーツに眼鏡と髭姿の桑田をはじめ、飾り気のない素朴なファッションに身を包んだメンバーたちが、クラシカルな調度品が置かれた部屋で演奏しており、前作シングル「恋のブギウギナイト」とは真逆のような世界観がシブい。

 そんな空間で炸裂する桑田お得意のスライドギターは文句なしにカッコイイ。プレミア公開での副音声的な桑田のコメントでは、MVの中でZZ Topのパフォーマンスをオマージュしたアクションを行っていることも明かされた。ZZ Topといえば、アメリカ・テキサス州出身の“サザンロック”バンド。ロックファンをニヤリとさせる粋な演出だ。さらに、今回もセクシーな女性ダンサーたちが登場しているところも、やはり見どころのひとつだろう。床に横になって女性に頭をもたれたまま、自由気ままな雰囲気でラフに歌う桑田さん、今回もイケおじすぎてたまりません。

 最後の夏フェス出演となる9月23日【ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2024 in HITACHINAKA】のステージで「ジャンヌ・ダルクによろしく」は披露されるのか? さらに、その初期衝動的なロックサウンドが、今冬にリリースを控えている9年ぶり16枚目のオリジナル・アルバムにどう繋がっていくのだろうか? 期待に胸が膨らみまくりで、まだまだ熱いサザンの季節は終わりそうにない。

Text by 岡本貴之

◎リリース情報
「ジャンヌ・ダルクによろしく」
2024/9/9 DIGITAL RELEASE