ロシア軍がウクライナ東部に攻勢を仕掛けている。2022年にロシアによるウクライナ侵攻が起きて2年以上が過ぎたが、終わりが見えるような状況ではない。ソ連崩壊後、民主国家として歩み始めた新生ロシアは、なぜ隣国を侵略できるような国になってしまったのか。プーチン大統領やロシアからはいったいどういった世界が見えているのか。朝日新聞論説委員の駒木明義氏がその内情に迫る。(新刊『ロシアから見える世界 なぜプーチンを止められないのか』(朝日新書)から一部抜粋、再編集した記事です)
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ロシアの侵略戦争は、ロシアという国と今後どう付き合っていったらよいのかという問題を世界の国々に突きつけている。もちろん日本も、例外ではない。
戦争が始まって2年が経過したころ、ロシアの外交関係者と話をする機会があった。とても日本の事情に詳しい人物だ。そのときに、こんなことを言われた。
「もしも今、ロシアと日本の間に平和条約があったとしたら、日本は大変でした。米国に言われて、ロシアに制裁しなければならない。だけどそれは条約違反になってしまう。頭が痛いことになっていましたね」
とても奇妙な発言だ。確かにロシアがウクライナへの全面的な侵略を始めた際、日本はG7と足並みをそろえて、速やかに対ロ制裁に踏みきった。岸田文雄首相が2024年4月に訪米した際に、バイデン米大統領はこれを高く評価した。
しかし、仮に日本がロシアと平和条約を結んでいたとしても、侵略行為を批判するのは至極あたりまえで、とやかく言われる筋合いはないはずだ。
実はこの外交関係者の発言の背景には、日ロ平和条約を巡る、日本とロシアの根本的な見解の相違があるのだ。
まず、日本の考え方を整理しておこう。
第2次世界大戦が終わって80年が経とうとしているのに、日本とロシア(終戦時はソ連だった)は、まだ平和条約を結んでいない。その原因は、両国間の領土問題が解決していないためだ。
日本は、現在ロシアが実効支配している択捉、国後、歯舞、色丹の四島を「北方領土」と称して、返還を要求している。
日本政府は公式には認めていないが、18 年11月、安倍晋三首相(当時)は4島返還を断念して、歯舞、色丹の2島の引き渡しだけを求めるという譲歩案に転じ、プーチン大統領に示した。
4島か2島かはともかく、領土問題さえ解決すれば、日本とロシアは平和条約を締結できるというのが、日本側の考え方だ。