タイトルを見た瞬間「同意!」と思い、即購入を決めた。姫野カオルコのエッセイ集だと知ったのは、レジに向かう道すがら。『昭和の犬』で直木賞を獲ったひとじゃないか。ジム帰りのジャージ姿で受賞の記者会見をしたひとじゃないか。あのマイペースぶりに感動した記憶が蘇り、顔がニヤけた。
 姫野の主張は一貫している。世の中の「そういうことになっている」ことに「えっ、なんでよ?」と言いたいのだ。特に思い入れもないのに雰囲気だけでジャズをかけている店は一体どういうつもりなのかという問いは至極もっともだし、わたしも「蕎麦屋のジャズが許せない」と考える人間なので、あれをムーディ&オシャレと思っている派閥とは決定的にソリが合わない。というワケなのでぜひ姫野派に入れてください!
 このほかにも、女のすっぴんは本当にダメなのか考えたり(姫野は「2年に1回」しか化粧をしない)、単行本を文庫化するという流れは非効率的なので逆にしてみてはどうかと訴えたりしている。どれも独特な言い分で笑えるのだけれど、分析の仕方にハッとする鋭さがある。エロ本における「嫁であることの『記号』」が「専業主婦の姑」であって、「未亡人の喪服」や「看護師さんの白衣」と同じように「制服」なんだと結論づけるあたりなんて、すごく納得してしまった。姑は着るものだったんだなぁ!
 ……と、愉快な分析でわたしたちを楽しませてくれる本書だが、ひとつだけ毛色の違う文章が。ポジティブ・シンキングを心がけるようにしたら、劇的にモテだした、という話だ。実際、通りすがりのひとにナンパされるなど、信じられないくらいモテている。ゆるふわ愛されメイクでがんばる女子が見たら、これまでの努力はなんだったのかと脱力するだろう。姫野の手にかかれば、モテすらも「そういうことになっている」の向こう側からやってくる。やっぱり姫野派に入れてください!

週刊朝日 2016年4月22日号