イーロン・マスクは2022年10月にTwitterを買収し、社員を7800人から3000人に減らした。社内では当時、何が起きていたのか。元Twitterジャパン社長の笹本裕さんは「24時間以内にGoogleフォームで『残る』ボタンを押さないと自主退職という扱いだった。もしきちんとした人事や法務の部署があったら絶対に止めていたはずだ」という――。
※本稿は、笹本裕『イーロン・ショック 元Twitterジャパン社長が見た「破壊と創造」の215日』(文藝春秋)の一部を再編集したものです。
昨日までいた人が今日はもういない
最初の5週間は「リストラの5週間」でした。
当時のCFOやCEOも初日や2日目にいなくなりました。
Slackには全社員がメンバーとして入っています。すると、Slackに表示されるメンバー数が「あれっ? 7800人くらいだったのが3000人に減っちゃったぞ」となったり、「あ、今週は100人減った」「また100人減った」となったりするのです。
「え、いまは何人だっけ?」「いま、どうやら3000人を切ったぞ」みたいなことの繰り返し。毎日、毎週のようにSlackの人数が減っていくのを見てきました。
ちなみに2023年の1月に、Slackを全部リフレッシュしました。スレッドがあまりにもたくさんあって、みんなが自由に会社への批判なんかを書き込んでいたからです。イーロンが「一度全部きれいにする」と言って立て直しをしました。
会社に残るかどうかはワンクリック
おそらくイーロンには「人員をこれくらい減らしたい」という目安があったのだと思います。
一度大きなリストラをやったのですが、その数字に満たなかった。そこで、自主退職を促していきました。
その促し方もシンプルなものでした。メールでフォームが送られてくるのです。そこには「24時間以内にこのGoogleフォームで『残る(Commit)』を選択してくれ」と書いてあります。フォームに飛ぶと「残る」というボタンがあって「これを押してくれ」というわけです。そして「24時間で締め切るからね」と言います。
これはこれで、すごい決断の求め方だなと思いました。「残るやつはそれを押しなさい」と。
「24時間経って押していなかったら、あなたは自主退職すると申告したことになるからね」という内容なわけです。社内では「どうするの? 押す? 押さない?」みたいな会話が飛び交っていました。
まるで韓国のドラマ『イカゲーム』のようでした。タイムリミットがあるわけです。