AERAで連載中の「この人のこの本」では、いま読んでおくべき一冊を取り上げ、そこに込めた思いや舞台裏を著者にインタビュー。
ジャニーズ問題と玉音放送。料理家・土井善晴さんの味噌汁と親鸞の「南無阿弥陀仏」。最新の話題や流行、いま広く支持されている作品と過去の傑作、出来事を同時に論じたコラム・シリーズ「これは、アレだな」から早くも3冊目の書籍化が本書。同時代に生まれているものと過去の人間の英知を合わせて考えることで、話題の本質が見えてくる一冊となった『「不適切」ってなんだっけ これは、アレじゃない』。著者の高橋源一郎さんに同書にかける思いを聞いた。
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好奇心と経験。そのいずれも豊富に持つ著者が、最新流行とそれに関連する過去の作品を同列に並べ、週刊誌の連載というハイペースで次々に論じていったら……。世にも楽しいコラム・シリーズの書籍化第3弾が本書だ。
「ぼくはミーハーな人間だと思います。それに、傑出した才能はその時代にいちばん人気のあるジャンルに集まるから、いま流行っているものが面白くないはずがないんです」
高橋源一郎さん(73)はそう語る。「サンデー毎日」の連載「これは、アレだな」は、映画やマンガ、アニメ、舞台に本と、ジャンルを問わず、いま評価されている作品を追いかけつつ、そこから想起された過去の傑作を呼び出して一緒に論じるスタイルを取っている。一例を挙げれば、宮藤官九郎脚本のテレビドラマ「不適切にもほどがある!」を取り上げ、この「不適切」という概念の考察から、かつて社会党の浅沼稲次郎委員長が刺殺された事件に際して書かれ、その「不適切」さが批判された大江健三郎の小説『セヴンティーン』『政治少年死す』や深沢七郎『風流夢譚』について書いている。
「人間の好みって、どの時代でも、そんなに変わらないんです。30年前、60年前とだいたい同じものがヒットしている。新しさってちょっとしたマイナーチェンジに過ぎず、ほんとうに新しいものはほとんどありません」
とはいえ、歴史には時々、例外が現れる。
「たとえば、カフカの小説は、それまで書かれたどんな小説にも似ていない特異なものでした。宮澤賢治の作品もそうです。まれにそういう天才が現れます。それはもしかしたら、同じ文学という枠組みの中では比較できるものがないけど、音楽とか、同時代のまったく別ジャンルの作品と比べると何かが見えてきたりするのかもしれません」