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 去年の9月、夕方の散歩中に一匹のネコと出会った。「どこの子?」と聞くと、ニャーニャーと足に絡みついてくる。そのままわが家から50メートルのところまでくると、犬と散歩に出かける夫と会った。ネコは退散。
 1週間後、あのネコが庭からこちらをうかがっていた。工事のため来てくれている大工さんに、弁当のおかずをもらっている。
 ネコはその後も庭に現れ、夫にも絡みつく。キジトラの雄。両方の後脚にケガをして肉が見えている。やせていて背骨も目立つ。
「飼ってやったら」と、大工さん。抱き上げると、おとなしく腕の中に収まった。
 うーんと夫は悩む。東日本大震災の津波で家を失い、転々として、5軒目の今の家には、震災を共に乗り越えた大型犬がいる。平屋なので、以前のようにネコと犬のすみ分けもできない。共生できるだろうか……。その思いは私も同じだ。
 それでも、抱き上げたときの温かみが心を離れない。「可哀想だものね」と、飼うことに決定した。
 獣医さんによると1歳近いという。体力をつけさせてから去勢手術。駆虫注射もすませ、ばりばり食べてふっくらしてきた(写真)。
 6歳の犬ともすんなり仲良く遊び、眠る。掃除機の音も怖がらない太い神経。三方を山に囲まれた里でハンターぶりを発揮している。
 外に出すとき、夫は「帰ってこなくてもいいぞ」。これは昔、私もよく言われたっけ。戻ると、「お帰り」と私。犬もクンクンとボディーチェックをする。海辺から山辺に移住した一家の、毎日の一コマである。
 名前は少し気取ってティグル(フランス語でトラ)。被災して5年の私たちの生活で、初めての震災を知らない家族だ。
 久しぶりの若いネコの参入で、笑いや活気の増した70代夫婦である。

(津田公子さん 宮城県/73歳/主婦)

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