AERAの連載「2024パリへの道」では、今夏開催のパリ五輪・パラリンピックでの活躍が期待される各競技のアスリートが登場。これまでの競技人生や、パリ大会へ向けた思いを語ります。AERA 2024年9月9日号から。
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レーサー(競技用車いす)に初めて乗った時、それまで経験したことのない“風”を感じた。中学2年生の時のことだ。
「スピードが出た時の風を切る感覚。それが好きなんです」
岩手県紫波町出身。町の陸上競技場は土のトラックなので、練習では30キロ離れた花巻市の陸上競技場に通う。
サポートするのは、母の尚子さんだ。陸上の経験はないが、フォームのチェックやトレーニング内容の相談、遠征時の身の回りの世話まで、娘のアスリート生活を支える。
中学3年生の時は、体調を崩して入退院を繰り返し、ほとんど練習ができなかった。大会に出場してもタイムは伸び悩んだ。しかも、岩手の冬は雪が積もるので、外で走ることができない。そこで尚子さんは、大きな決断をした。
「室内でも練習ができるようにローラー付きのトレーニングマシンを買いました。当時、岩手県でこのマシンを持っている人はいなかったので、情報を集めるだけで大変でした」
そんな母の支えにこたえ、小野寺は高校生になってから頭角を現し始めた。
その原動力となるのは、「負けたくない」という強い気持ちだ。小野寺は自身の性格を「負けず嫌い」と言い、尚子さんも「日本でも世界でも、負けると誰よりも悔しがる」と話す。ユースの国際大会で外国の選手に負けると、帰国後はさらに練習に打ち込むようになった。
そんな二人の夢は、次第に「パラリンピックでメダルを獲ること」に変わっていった。パリ大会に向けては、肩甲骨を強化するトレーニングに重点的に取り組んできた。
「肩甲骨の可動域を広くして瞬発力を上げて、レーサーをこぐ時のハンドリングも強化していきたい」(小野寺)