いまや、日本を代表するアニメーション監督のひとりだ。山田尚子監督が最新作で表現するのは、人が色として見える女子高校生がバンドを組み、心を通わせていく物語だ。山田監督が表現したかったものとは何か。
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顕微鏡を覗くように描きたい
――映画「きみの色」は、長崎をモデルにした架空の街を舞台に繰り広げられる、トツ子、きみ、ルイ、3人の高校生たちの物語だ。
山田 「きみの色」は、「音楽を奏でる人たちの物語を作りたい」というところからスタートしました。
主人公のトツ子が、「人を色で感じる」という感性を持っている、というテーマがまずあって、脚本の吉田玲子さんと、繊細すぎる子たちの話になっていくのかなと話しながら、進めていきました。「繊細」といってもさまざまな個性があるわけで、そのひとつひとつを、顕微鏡を覗くように描いていきたいと思ったんです。
トツ子はミッションスクールに通っている設定だったので、長崎が最初に頭に浮かび、「まずは行ってみよう」とロケハンをしました。着いた瞬間から、穏やかな海や人々の人柄や空気感が、これから描いていきたいものにぴったりだと感じました。
五島の島々に渡って、たくさんの教会を見学させていただいて、教会守の人、船に乗っている人、偶然出会った人、いろいろな方たちとお話しする機会があって、すごくすてきだなと思ったんです。優しいし、踏み込みすぎないし、でも放っておかない。心をフラットに開いてくださるような印象がありました。その時に感じた印象は特にルイくんのパーソナリティに反映されています。
光を浴びるような印象で
――作品を通じて感じるのは、作画の印象も相まって、まぶしいような、やわらかでみずみずしい世界観だ。願いや祈りにもフォーカスが当たる。
山田 大きく作品を取り囲むものとして、光を描こうと思っていました。光を浴びるような印象で、相手の印象を受け取る女の子を描いてみたいなと思ったんです。
映像作品はすべてを言葉で説明する必要はなく、色や動き、時間といったさまざまなレイヤーで物事を伝え、感じるものを描くことができます。