根強い支持を集める「カリスマ」と呼ばれる経営者たちの言葉。日米の「経営者の言葉」に共通点はあるのか。ソニーとグーグル(現アルファベット)に在籍したアレックス代表取締役社長兼CEOの辻野晃一郎さんに聞いた。AERA 2024年9月2日号より。
* * *
日米の「経営者の言葉」に違いはあるのだろうか。
「一から事業を立ち上げ、社会変革をもたらすほどの成功を収めた経営者はすさまじいエネルギーを備えています。そんな経営者の思考や見えている世界は、人種や国籍を問わず重なる部分があります」
こう断言するのは、ソニーとグーグル(現アルファベット)に在籍したアレックス代表取締役社長兼CEOの辻野晃一郎さん(67)だ。辻野さんはソニーで22年間勤務し、VAIO、スゴ録、コクーンなどソニーの主力商品を次々と生み出した。2006年に退社した翌年、グーグルに入社し、グーグル日本法人代表取締役社長を務めた。
日米のカリスマ経営者の薫陶を受けた辻野さんは、先駆的な経営者が発する言葉の共通点を実感してきた。中でも、ソニー創業者の井深大や盛田昭夫の語録と、グーグル創業者のラリー・ペイジやセルゲイ・ブリンの言葉は重なる面が多いという。
「グーグルはナスダックに上場した際の株主へのメッセージで、『凡庸な会社にはならない』と宣言しました。これは井深さんがソニー創業時に記した『設立趣意書』のエッセンスに通じると感じています」
井深は設立趣意書で「自由闊達にして愉快なる理想工場の建設」や「不当なる儲け主義を廃する」といった独自の方針を掲げている。そんな素地もあって、辻野さんはグーグル入社時、「昔のソニーみたいな会社だな」という第一印象を抱いたという。
同じ気風は、アップルの創業者スティーブ・ジョブズにも感じるという。例えば、「あなたの持ち時間は限られている。他人の人生を生きて、その時間を無駄にするな」という言葉。世間体や周囲に迎合するばかりでは何も成し遂げられない、と発破をかけるジョブズの名言の一つだが、辻野さんにはこれが盛田の言葉と重なるという。
「入社式の祝辞で盛田さんは『ソニーが自分の居場所じゃないと思ったら、とっととやめてください』と言っていました。新入社員に向かって、こんなことを言う日本企業のトップは他にいないと思います」