また、かつてのJALのように全て自前で路線展開ができるような事業規模にもなかったANAは、そもそも「自分たちだけではできない」と自覚していたから、アライアンスをどう生かすかに知恵を絞り、ポイント・ツー・ポイントだけではなく、乗り継ぎ需要も含めたネットワークの充実という視点で取り組んできた。その積み重ねが「売る力」となって現れているのだろう。
現在は、JALも失敗を繰り返さないような仕組みをつくっていると思うが、往年の規模を回復できるまでにはなっていない。実は、日本人海外旅行者が日本の航空会社を利用される割合は3割程度、訪日外国人に至っては2割弱に過ぎない。昨今の訪日需要の伸びから考えても、ANAもJALも国際線ネットワークの充実はまだまだ可能である。これからも熾烈な競争は変わらないだろう。
もう1つANAとJALの国際線の路線展開に少し違いがあるように思う。どちらかといえば、リゾート路線を含めて全方位に路線が充実しているJALと「ビジネス路線」を中心に展開しているANAといった具合に。
JALの国際線は、我々に比べてホノルルやグアムなどのリゾート路線でのシェアが高い。しかしANAはそうした路線にはほとんど力を注がず、ビジネス路線に注力してきた。赤字が続くなかで国際線の路線改革を行った際に、ホノルル線を減便するなど、収益の出にくいリゾート路線を中心に整理した。
一方、ビジネス路線は、アライアンス内での協働でシナジー効果を生み出して新たな需要を喚起でき、収益率も維持しやすい。
例えば15年に成田~ヒューストンの直行便路線を開設したが、すでに就航していたユナイテッドにすれば、その区間だけみれば、競合となるANAが入ってこない方がありがたい。当初は、「本当にヒューストンに就航するのか?」という顔をされた。
しかし、1便しかなかったものが2便飛んでいるということになれば、ネットワーク効果で新しい需要を取り込める。しかもヒューストンからはメキシコやリオデジャネイロなどへの、ユナイテッドの路線を活用した、乗り継ぎ需要を喚起できる。こうした利便性がビジネスのお客さまには支持をいただける前提になる。
そして国際線の路線拡大の原動力となるのが、ボーイング787だ。航空機の航続距離の性能上、かつてはジャンボやボーイング777といった、300席以上の大型機で飛ばざるを得なかった長距離路線が、運航コストの低位な中型機での運航が可能となることから、例えばサンノゼやブリュッセル、メキシコなど、300席までは需要の見込めない路線であっても、160席で7~8割の搭乗率を稼ぐことができれば、十分に収益が確保できる。それにより、国際線のネットワーク自由度は飛躍的に高まる。やはりネットワーク自由度の向上こそが国際線ビジネスの勝負の分かれ目となる。B787はまさにゲームチェンジャーであったと思う。
1つ付け加えれば、ANAはエアバスの超大型機A380を導入してハワイ路線に投入する予定だ。これは、従来より「ビジネス路線」に注力してきた半面、ANAのネットワークの中で、リゾート路線が相対的に劣後となっており、長期的な戦略を見据える中で、リゾート路線の強化が課題となっているためだ。そういった中で、リゾートの象徴的な路線であるハワイ路線に注目した。
ANAは現在、ハワイ路線に約200席のボーイング767を1日3便飛ばしている。ハワイへは日本から年間150万人が訪れ、その輸送シェアはANAが10%、JALが37%、他の航空会社が53%という状況だ。ANAの平均搭乗率は94%、つまり年間通じてほぼ満席だ。
これは、リゾート路線かビジネス路線かということよりも、高需要路線にANAが十分に対応できていないということに他ならない。A380の導入によりANAの輸送キャパシティが1日あたり1000席ほど増えることに、心配の声も耳に入るが、それでも現在のシェアが24%になるに過ぎない。ANAにとって、リゾート路線は後発参入と言ってもよい。
シェアの拡大に向けて、ファーストクラスの設定など独自のハワイ路線のサービスも検討するとともに、500席以上という座席規模を生かして、国内線からの接続や、アジアや中国からの接続需要の喚起、またマイル償還の充実など、さらなるお客様の利便性向上によって競争力を強化し、堅調な需要をしっかりとご搭乗に結びつけていきたい。ANAがやれば、絶対に競争力の高いサービスを提供できるという検討の結果としての決断だ。