AERAで連載中の「この人のこの本」では、いま読んでおくべき一冊を取り上げ、そこに込めた思いや舞台裏を著者にインタビュー。
東京の大学に入ったものの、友だちも恋人もお金もなくコロナ禍でアパートにこもる杏奈は、SNSでマリリン・モンローを知り、彼女と孤独を分かち合う。そして卒論で彼女を取り上げ、セックス・シンボルのイメージと本人とのギャップを探っていく。マリリン・モンローが全然違って見えてくる刺激的な長編小説『マリリン・トールド・ミー』。著者である山内マリコさんに同書にかける思いを聞いた。
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コロナ禍の大学生とマリリン・モンロー。時空を超えた二人の女性の人生が並行して進み、マリリン・モンローを再発見できる小説だ。
マリリン・モンローは華やかなスターかと思いきや、映画会社との契約は一方的なもので、自分の意思とは裏腹にセックス・シンボルのイメージが固定されていく。ストリッパー役をボイコットしてハリウッドからニューヨークへ。アクターズ・スタジオで演技を勉強し直した。
「マリリンが生きたのは、男女差別的で保守的な1950年代。自己探求に時間を費やす、とても現代的な人でした。生きづらさは半端じゃなかったと思います。まるで明治時代に令和の人が生きているみたいな」
と話すのは山内マリコさん(43)。女性解放運動家の本を読んだことをきっかけに、フェミニズムの文脈でモンローを書いてみたいと考えた。
「かつて女性は、男の人に幸せにしてもらうものと思い込まされていました。フェミニズムを知ると、自分の手で自分を幸せにできるのだと思える。マリリンがもう少し長生きしていたら、きっとフェミニズムに救われたんじゃないかな」
山内さんは2010年に上野千鶴子さんの『女ぎらい ニッポンのミソジニー』を読んでフェミニズムに目を開かれた。
「世の中にモヤモヤした怒りを抱えていた30歳の頃に読んだ、運命の一冊。薄ぼんやり見えていた社会が、視力2.0で見渡せるようになりました」
20代前半に男性に持ち上げられた時、自分の価値のように思っていたが、若い女という記号化されたものが評価されていたこと。自分が男性側からものを見ていたこと。