2015年、シリアからヨーロッパ諸国に流れる人々の画とともに国内でにわかに関心を集めた移民問題。本書はNHKでリポーター経験のあるジャーナリストが、第2次世界大戦後、労働移民や政治犯などを包括的に受け入れるフランス社会の今をまとめたルポだ。
「イスラム国」のテロに象徴されるように、移民はしばしば社会への脅威として報道される。しかし「はたして実際にそうなのか」と、著者は繰り返し問いかける。両親を殺害され来仏したアフガニスタン出身の少年は、一度は自殺を企てるも、一般家庭へのホームステイなどを経て心の安寧を取り戻す。彼のように国境を越えてなお不安定な状況に置かれる者もいる一方、移民2世として修士号を取得、経営コンサルタントを経て校長になった黒人女性も登場する。
事例が伝えるのは一言に要約できない、個別の人生の重みだ。彼・彼女らが次にやって来るのは日本かもしれない。その時自分はどう対応するか、疑問をぶつけるつもりで読み進めたい。
※週刊朝日 2016年3月18日号

