頼り上手になるためには練習が必要
藤野:頼るのが下手というか、苦手な方がいます。何をどう頼っていいかわからなくって一人でがんばってしまうみたいな人ですね。僕はよく 「頼り上手」もスキルの一つ、という話をするんですけど。頼り上手になるためには、「頼る練習」が必要だと思うんですよね。
桜林:雑談でも、頼れない人はめちゃくちゃたくさんいます。別に自分でできることは自分でやればいいとは思うんです。ただ、頼ることに罪悪感を覚える人、「自分が苦しいから、頼らないほうが楽だ」って言う人がいます。急にでっかいことを頼るのはしんどいし、断られた時のショックが大きいですから、ちっちゃく頼る練習から始めるといいと思います。でも、雑談でそう話すと「ちっちゃいことってどんなことですか?」と聞く人もいます。
だから「例えば、荷物を持っていて、靴紐がほどけた時にどうする?」ときいてみます。すると「床に置いて結びます」「荷物を持ちながら苦しい体勢ですが、無理やり靴紐を結びます」なんて言う人もいるので、「いや、そこは『荷物を持って』って言おうよ」と言うんです。でも、そんな小さな頼みごとすらできない人がいるんですよね。
藤野:今、「靴紐を結んでもらおうよ」って言うのかと思ってドキドキしました。それは、僕の中ではかなりハードルが高いなと思っていて(笑)。
桜林:王子様思考! ちがいます。「ちょっと荷物を持っててよ」って話です(笑)。
藤野:よかった。でも、今のはちょっと面白いですね。こんな靴紐のことすら、やっぱりいろんな人のいろんな考えがあるんだ、という。僕は、がんばり屋さんも素晴らしいとは思うんですけど、がんばり屋から頼り上手へのシフトというのが、どっかの段階では必要になるタイミングってあるかなと思っています。僕はもう、けっこうおんぶに抱っこで生きてきてるところがあるんです。
今日のイベントも、「どんな話をしようか」みたいな事前の打ち合わせが一瞬あったんですけど。一瞬っていうのは本当に一瞬で。桜林さんから「大丈夫です」「なんとかします」っていう心強いお言葉があったので、それに頼ろうと(笑)。だから本当に打ち合わせもなく今日ここに来たんですけど、今のところはなんとかうまくいって。いってますよね?
桜林:大丈夫です。いってます(笑)。
藤野:だから、こういうふうに頼ってみると、また新しい扉が開いたりすることもあると思うので、ぜひ「頼る」練習をしてみてほしいなと思ったりします。(後編に続く)
◎藤野智哉(ふじの・ともや)/1991年生まれ。精神科医、産業医、公認心理師。秋田大学医学部卒業。幼少期に罹患した川崎病が原因で、心臓に冠動脈瘤という障害が残り、現在も治療を続ける。学生時代から激しい運動を制限されるなどの葛藤と闘うなかで、医者の道を志す。精神鑑定などの司法精神医学分野にも興味をもち、現在は精神神経科勤務のかたわら、医療刑務所の医師としても勤務。障害とともに生きることで学んできた考え方と、精神科医としての知見を発信しており、メディアへの出演も多数。著書に3.5万部を突破した『「誰かのため」に生きすぎない』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『自分を幸せにする「いい加減」の処方せん』(ワニブックス)、『精神科医が教える 生きるのがラクになる脱力レッスン』(三笠書房)などがある。
◎桜林直子(さくらばやし・なおこ)/1978年生まれ。東京都出身。洋菓子業界で12年の会社員生活を経て2011年に独立し、クッキー店「SAC about cookies」を開店する。noteで発表したエッセイが注目を集め、「セブンルール」(フジテレビ)に出演。著書『世界は夢組と叶え組でできている』(ダイヤモンド社)では、ユニークな視点から働き方・生き方についてのヒントを提案。現在は「雑談の人」という看板を掲げ、雑談サービス「サクちゃん聞いて」を提供。コラムニストのジェーン・スーさんとのポッドキャスト番組「となりの雑談』も好評配信中。
(ディスカヴァー編集部)
*AERAオンライン限定記事