松下洸平さん直筆の連載タイトルロゴ
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木村 台本にはない動きで、あそこで振り返ると思ってなかったから驚いたよ。けれど、私との役の上での距離感を示してくれたのがうれしかった。ここから3カ月、「この人のお母さんになれる」と思えた。自分で頑張っても、なかなか作りきれなかったところが埋まった気がしました。

松下 多江さんは、いつも優しいリズムでお話ししてくださるし、そこにいてくれるだけで現場がふわっとするんです。僕は待ち時間に、多江さんと他愛ないことからまじめなことまで色々とお話しする時間がすごく楽しかったですし、癒やしでした。一方で、アグレッシブな方だなとも思っていました。

木村 そう? わたし世間では、あまり動かない人だと思われてると思うんだけどな。

松下 (笑)。

木村 結構、ふざけてたからかな(笑)。私はみんなが笑っていたらいいなと思っているからね。洸平くんもすごく空気を読んでいて、みんなを和ませるようなサービス精神が旺盛。どうせ大変なお仕事だから、楽しいほうがいいなと思うところは同じだと思う。

松下 うんうん。

木村 待ち時間に助監督さんが「スタンバイ中」と声を出してくれるんですが、洸平くんも言ってくれてたね(笑)。

松下 映画やドラマの現場で、誰かが「スタンバイ中」や「休憩中」と言うと、そばにいる人がどんどん続けて言うという不思議な決まりごと?みたいなのがあって。それを僕が言っても、みんな続いてくれるのがうれしかった(笑)。

木村 洸平くんが「多江さんも言ってくださいよ」というから声を出したら、「意外に本格的に言いましたね」と(笑)。

松下 そうそう、多江さんのイメージにない野太い声で(笑)。「やんごと」の現場は、ピリピリした雰囲気ではなかったですが、石橋凌さん演じるお父さんが、だーっと大声で怒鳴る怖くて迫力があるシーンも多かったです。でも、演じている僕たちはこの状況を楽しんでいるほうが、このドラマにとってはいいんだろうなと。その雰囲気を多江さんが率先して作ってくださった。ぽろっと面白いことやおかしな動きをしてくれるんです。

木村 そうね(笑)。役でツッコんだりしてね。

松下 お父さんが無茶苦茶なことを言うシーンで、台本上では絶対に刃向かわないお母さんが、リハーサルの時だけ「自分でやってください」と言い返したり(笑)。

木村 本番で「はい、オッケー」となってから、「ほんっとひどいよねー」って言ったりね。私を散々に怒鳴るお父さんに仕返ししてた(笑)。重い芝居の後に、楽しいことができる現場だったのは、洸平くんや太鳳ちゃんが主役然とせず、周囲をリスペクトしてくれていたから。温かい気持ちが伝染していて自然と家族になれたと思う。

松下 まさに家族でしたよね。

木村 役者は、板の上に乗ったらみんな一緒。年齢や性別、キャリアも関係ない。洸平くんはすごく活躍していて人気があるのに、そこに惑わされずにいる。そこが信頼できるし、現場の安心感につながっていた。

松下 そんなふうに言っていただけるなんて、光栄です。ありがとうございます。

(構成/編集部・古田真梨子)

※12月26日発売の「AERA 1月2-9日合併号」では、対談の続きを掲載しています。

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古田真梨子

古田真梨子

AERA記者。朝日新聞社入社後、福島→横浜→東京社会部→週刊朝日編集部を経て現職。 途中、休職して南インド・ベンガル―ルに渡り、家族とともに3年半を過ごしました。 京都出身。中高保健体育教員免許。2児の子育て中。

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