生活を切り詰めざるを得ない

「ただ……」と少し声を落とすのが、月々の返済の負担だ。

 いざ返済が始まってみると、予想以上に負担が大きい。毎年のように海外旅行に行き、外食の頻度も高かったけれど、「ローン返済を考えると、切り詰めざるを得ない」(A子さん)。子どもをなかなか授からず、不妊治療を始めたこともあり、ローンを組んだ時には想定していなかった出費がかさんでいたりもする。

「この先、子どもを授かることができたとしても、私も働くペースを落とすわけにはいかないということを、改めて実感しています」(同)

10年後には都心の物件は買えなくなる

 後悔はしていない。資産価値を保つ物件だと思っているし、結果的に資産形成につながると信じている。人口が急減し最終的に消滅の可能性がある「消滅可能性自治体」などの報道を見ると、「立地の良いところを買わないと、資産価値が大きく下がるんだ」と、気持ちが前に向く部分もある。

「私たちの場合、ペアローンを組まないと、こんな物件を買うことはできなかったと思います。マンション価格は上がる一方で、私たちは今が一番働き盛り。10年後には私たちの年収では都心の物件が買えなくなると思って決めたのも大きいです。後から振り返った時、この選択は正解だったと思えることを信じたいですね」(同)

借入総額5千万円以上が84%

 マンション価格の高騰に伴い、ローンの借入額も増加傾向にある。既婚世帯では、共働きのほうが借入総額が多く、世帯年収1千万円以上の世帯では平均6369万円、借入総額が5千万円以上に上る世帯が84%を占めるという調査結果(リクルート「2023年首都圏新築マンション契約者動向調査」)もある。

 だが、夫婦ともに多額のローンを背負う“背伸び買い”には、予期せぬリスクもつきまとう。次回では、利用者が広がるペアローンのメリットとリスクについて、専門家の声を元に解説する。

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松岡かすみ

松岡かすみ

松岡かすみ(まつおか・かすみ) 1986年、高知県生まれ。同志社大学文学部卒業。PR会社、宣伝会議を経て、2015年より「週刊朝日」編集部記者。2021年からフリーランス記者として、雑誌や書籍、ウェブメディアなどの分野で活動。

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