そんな明菜が、最新アルバムの曲中心などといったアーティスト的なアプローチではなく、シングル全曲を歌いまくるという流行歌手的なスタンスでライブをやったわけだ。80年代のヒット曲が次々と聴ける贅沢さというだけでも「伝説のコンサート」と呼ぶにふさわしい。

 しかも、このライブは89年11月にCD、VHSビデオ、レーザーディスクとして発売された。いわば、80年代の締めくくりにソフト化され、世に出たのだ。

 そこで筆者は90年に出版された「80’sアイドル・ライナーノーツ」(JICC出版局)に関わった際、このアルバムを重要な位置に置いた。この本は複数の書き手が80年代に出たアイドルのシングルとアルバムを計183枚、批評するという趣向。最初の見開きは80年に引退した山口百恵(さよならの向う側)と同年デビューの聖子(青い珊瑚礁)である。そして、最後の見開きには、このアルバム(AKINA EAST LIVE)と、89年にレコ大を受賞したWink(淋しい熱帯魚)という構成にした。

 改めて自分の文章を読み返してみると、こんなことを書いている。

「このアルバムでの彼女は久々にアイドルしている印象で、強風にスカートを翻されてむくれているところなど、じつに可愛い。デビュー当時の作品を照れくさがりながらも、当時のような声質で歌っているのが美空ひばりのようだと話題になったが、やはり彼女は80年代のひばりなのだろう」

 ちなみに、ひばりはこのライブの翌々月に亡くなっている。当時すでに、ひばりの代わりに「歌謡界の女王」と呼ばれ始めていたのが明菜だが、その「在位」は短かった。

 ひばり逝去から約半月後、彼女は恋人だった近藤真彦の自宅で自殺未遂をしてしまう。この背景には、結婚をめぐってふたりの温度差が大きかったことや、2月に近藤が聖子とニューヨークで密会したこと、さらにはひばりの弔問に明菜が訪れなかったことを近藤が咎めたことなどが取り沙汰されている。

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8周年ライブは「奇跡のタイミング」だった