金融政策決定会合後、会見する日本銀行の黒田東彦総裁(当時)=2013年9月5日、東京都中央区の日銀本店

株価値上がりで得をするのは富裕層

 特に問題なのは、「金融市場や産業界の顔色ばかりをうかがっている」点だと強調する。

「株価が値上がりして得をするのは金融資産を多く持つ富裕層が中心です。緩和策で企業の金利負担は和らぎましたが、国民の金利収入を奪ってしまった。財政の規律も緩み、特定の産業に向けたバラマキ政策も目立つ。低金利のもとで進んだ円安は輸出企業にとってメリットになりますが、輸入物価の値上がりを通じて国内の物価が上昇します。つまり、企業を潤すために国民にしわ寄せがいく構図です」

 その意味で、日銀の異次元緩和策からの転換は評価できるという。

バブル状態にした張本人たち

 ただ、7月の追加利上げ後には株価が乱高下した。これを受けて、衆院財務金融委員会と参院財政金融委員会は8月23日に閉会中審査を開き、参考人として日銀の植田和男総裁の出席を要請することを決めた。

 斎藤さんは続ける。

「緩和策の修正に踏み切った植田総裁は、参考人として呼ばれる筋合いはないはず。本来、呼ばれるべきは、黒田東彦前総裁なり安倍元首相なり、緩和策によって金融市場をバブル状態にした張本人たちでしょう。植田総裁を呼ぶということは、今の政権や与党が金融市場にばかり目を向けていることの表れと言っていい」

 岸田氏の不出馬表明を受けて、総裁選の立候補者が取りざたされるが、混戦も予想される。斎藤さんは「新しいリーダーには、少なくても、これまでの金融市場や産業界重視の路線から脱却し、国民の生活のことを考えた経済政策を打ち出せる人が必要」と訴えている。

2019年、経済3団体祝賀パーティーで記念写真におさまる安倍晋三首相(当時、左から2人目)=2019年1月7日

(AERA dot.編集部 池田正史)

著者プロフィールを見る
池田正史

池田正史

主に身のまわりのお金の問題について取材しています。普段暮らしていてつい見過ごしがちな問題を見つけられるように勉強中です。その地方特有の経済や産業にも関心があります。1975年、茨城県生まれ。慶応大学卒。信託銀行退職後、環境や途上国支援の業界紙、週刊エコノミスト編集部、月刊ニュースがわかる編集室、週刊朝日編集部などを経て現職。

池田正史の記事一覧はこちら