「第4学童」で遊ぶ早川愛子さんと子どもたち(撮影/國府田英之)

一度町を出ても戻ってくる人が多い

 町から関越自動車道のインターチェンジまでは車で10分ほど。都会や秩父などの観光地へも、その気になればすぐに足を運べるという点で、“脱出”しやすい田舎町でもある。つきのわ駅そばの駐車場は24時間でたったの200円。都会の物差しでは、便利か不便かは測れない。

 人口増に成功しつつも、町は派手な宣伝は一切してこなかった。取材に対応してくれた前出の波多さんも広報担当者の神辺沙枝さん(26)も地元出身。PRが担当なのだが、いい話ばかりを前面に出そうとはせず、ありのままを正直に話す。いい意味でユルさを感じさせる。

 おなかに赤ちゃんがいる神辺さんは地元愛を語りつつも、「つきのわ駅近くの住宅地に公園が少なくて、遊ぶ場所がないんですよ」と母親目線で指摘する。

 2児の母の波多さんは結婚後、“故郷”に戻ってきた。「20代の独身の頃はここに帰りたいなんて思いませんでした」と本音を口にしつつ、「でも、いざ結婚してみると、子育てをするなら滑川だって。家のそばの田んぼではカエルが大合唱していますが(笑)、自然の中で子育てができて、大人も四季の移り変わりを感じながら過ごせます。だから一度町を出ても、子育てで戻ってくる人が多いのだと思います」と続けた。

 当然、取材をしていると不満の声もあった。

「習い事は町外に出ている人が多い」(千島さん)
「中学校が何キロも離れていて遠いから、新しく作ってほしい」(早川さん)
「子育てが落ち着いてパートを再開したくても町内には働く場所が少ない」「外食する場所がない」(駅前で取材した住民)

 子どもが増えたことで、近い将来小学校の教室が足りなくなる懸念もあるそうだ。問題点のない町はない。

 それでも「口コミで滑川町を知って、実際に訪れてみて、気に入ってくださった方が多いです」と波多さん。

 手厚い子育て支援と、そこで生まれる人のつながり。住んだ人にしかわからない「何もない」がゆえの魅力。背伸びをしなくていい環境と安心感のある暮らしが、この、ちょっと不便な田舎町の良さなのかもしれない。

(國府田英之)

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國府田英之

國府田英之

1976年生まれ。全国紙の記者を経て2010年からフリーランスに。週刊誌記者やポータルサイトのニュースデスクなどを転々とする。家族の介護で離職し、しばらく無職で過ごしたのち20年秋からAERAdot.記者に。テーマは「社会」。どんなできごとも社会です。

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