東武東上線「つきのわ駅」(撮影/國府田英之)

移住者を「呼び込んだらおしまい」にしない

 なぜ、この町は人口が、特に子育て世帯が増えたのか。

 人口減に悩む県内の他の自治体関係者も、うらやましさを込めて指摘するが、まずは鉄道駅ができた“恩恵”が大きい。

 02年のつきのわ駅開業に合わせた周辺の土地区画整備事業で、たくさんの分譲の一戸建て住宅が売りに出された。都心に近い県内の駅周辺に比べ、価格帯の手ごろさや庭付きの広さが受け、子育て世帯が一気に流入した。

 池袋まで1時間という立地を「便利」と見るかは分かれるところ。だが、同町総務政策課の波多江美主任は「通勤時でも座れる点が大きいと思います」と話す。下りも、池袋で電車を待てば、座って帰れることが多いという。

 鉄道駅開業の恩恵にあやかるだけではなく、町ではさらに、独自に子育て世帯の支援策を強化した。

 06年に12歳までの医療費を無料化し、11年には18歳までに拡大した。町内の医療機関は決して多くはないが、近隣の自治体の医療機関を受診した際も窓口での支払いを不要としたことで、移住を検討する親たちに安心感を与えた。22年10月からは県内の医療機関に対象を拡大している。

 さらに、11年には全町民を対象に、保育園・幼稚園、小中学校の給食費の無償化に踏み切った。

 呼び込んだらおしまい、ではなく、実際に町で子育てを始めてからのサポート体制も整えた。

 就学前の子と、その親が交流できる「地域子育て支援拠点」が7カ所。親が働いている間、就学児を預けられる「学童保育」が現在は13カ所ある。

 子育て支援施設の一つ、町役場のそばにある「わくわく花子」を訪れると、数組の母子とスタッフが玩具で遊んだり、中庭で水遊びをしたりしていた。

 その一人、福島県出身の千島麻耶さん(32)は15年に夫と、生後数カ月の長男と県内の別の自治体から移住してきた。夫の家族から、滑川町は子育て支援が充実していると聞かされたことがきっかけで訪れてみると、自然豊かで静かな環境が故郷と重なり、気に入ったという。

 今では3児の母になり、週に3回ほど子育て支援施設を利用している。

「スタッフの方が子どもを見てくれるので、少し目を離しても安心ですし、子育てをする中で生じる、もやもやした思いをゆっくり聞いてくれるから、とても助かっています」

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3人以上子どもがいる家庭が多い