神戸市による立ち入り調査 (c)神戸新聞社
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 押収した看護師のスマホから捜査員が発見したのは、集団で入院患者を虐待する画像の数々だった。男性患者同士でキスをさせる、患者の頭を粘着テープでぐるぐる巻きにする。精神科病院を舞台にした虐待の実態を、神戸新聞取材班による「黴の生えた病棟で ルポ 神出病院虐待事件」(毎日新聞出版)から一部を抜粋する形で報告する。

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※神戸市の病院で2019年に起きた虐待事件の実態、背景にある精神医療体制の不備、渦中にあった病院がどのように再生を果たしてきているかなどを4回に分けて報告します。今回はその1回目に当たります。

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 神戸をイメージさせる海もなければ、ハイカラな洋風建築も、石畳もない。市の最西部に位置する西区は、台地の上にニュータウンが広がり、緑豊かな谷あいに田畑や果樹園、牧場が点在している。静かで、のどかで、犯罪発生件数も少ない。そんな一帯を管轄する兵庫県警の神戸西警察署で、署員たちは2019年夏からピリピリしていた。

 というのも、その頃から若い女性が襲われる強制わいせつ事件が相次いでいた。お盆中の8月13日午後11時頃、帰宅してきた女性が自宅マンションのエントランスに入ろうとすると、後ろから近づいてきた男に突然、顔を手で押さえつけられた。かろうじて悲鳴を上げると、男は下半身へと手を伸ばす。だが、女性はショートパンツだったことから、男は胸を触って走り去った。

 1カ月後の9月、そして11月にも、帰宅中の女性が背後から男に抱きつかれ、下着の中に手を入れられたり、尻を触られたりした。

 神戸西署が捜査を進める。すると、11月の犯行現場で不審な動きをする男を、近くの防犯カメラが捉えていた。さらに8月の事件で、犯行現場に近い建物のドアに掌紋(手のひらの紋)が付着していたことがわかった。

 一連の事件の容疑者として一人の男が浮上する。それが神出病院で、看護助手をしていた当時27歳の田村悠介(仮名)だ。

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事件の端緒はスマホだった