田村たちが柵のすき間からポテトチップスの袋を見せると、体をばたつかせ、顔をゆがめて必死でもがく。別のすき間からは何やら尖った紙状のものを差し込み、男性の体を何度も突っついていた。

 よく見ると、わざわざ包丁の形に作った厚紙の模型だ。男性がおびえ切った表情で体をよじって暴れると、ベッドの床板が外れ、男性の体が押しつぶされた。

 スマホに残された撮影時間から、警察は監禁時間を26分間としたが、実際には少なくとも1時間半にわたって監禁は続けられたという。田村たちはひとしきり患者をからかった後、現場を離れ、時折様子をうかがいに来るだけだった。男性を助け出したのは同じ部屋の別の患者だった。
 

虐待は手を替え品を替え

 動画に映っていた被害者は全員で7人。いずれも男性で重度の精神疾患があり、されるがままの状態だった。看護師らによる虐待行為は他にも手を替え品を替え続けられていた。

病院のトイレで患者を裸にし、椅子に座らせて顔にホースで水をかけ、嫌がると洗面器で湯をかける。

・車いすの患者の頭に粘着テープを四重に巻きつける。

・球状に丸めた粘着テープを患者の頭めがけて投げつけておびえる様子を面白がる。

・ 患者の頭にゴム手袋をかぶせ、嫌がって外そうとする患者の両腕を2人がかりで引っ張ってもてあそぶ。

・ シリンジ(注射器)を水鉄砲のようにして患者の顔に水をかけ、悲鳴を上げて嫌がる様子を見て楽しむ。

・ 患者の腕を引っ張って別の患者を殴らせたり、ベッド上で患者の体に別の患者を乗せたりし、抵抗すると押さえつけたり、鼻に指を突っ込んで引っ張ったりする。

 県警は動画を解析し、

「七つの暴力行為、三つの性的虐待」

を特定した。病院から撮影日の勤務態勢がわかる資料を提出させ、行為に関わったとみられる人物を絞り込む。起訴するか否かを判断する検察と打ち合わせをして、送検容疑を確定させた。

 県警の発表を受け、新聞各社は夕刊で事件を大きく扱った。全国紙は軒並み社会面のトップ級で展開する。神戸新聞は、地元の重大ニュースとして「新聞の顔」といわれる1面で報じた。

次のページ
稚拙な動機