谷川賢作
金聖雄監督の前作『ＳＡＹＡＭＡ みえない手錠をはずすまで』（「ほめちぎ」第４回参照）に引き続き、私が音楽を担当した映画『袴田厳 夢の間の世の中』がいよいよ２月２７日（土）よりポレポレ東中野で公開されました。
映画にとって公開初日というのは盛り上がるものでしょうが、『ＳＡＹＡＭＡ』の場合１３年１２月に初上映されて以来、３年たった今でも毎月淡々と国内のどこかで上映が深く静かに続いています（もちろん１日かぎりのイベント上映が多いですが）ので、おそらくこの再審が決定して釈放された（なんと４８年もの長い間獄中で過ごさねばならなかった）直後からの袴田厳さんを追ったドキュメンタリー映画も、この先ずーっと上映は続いていくのだと思います。ドキュメンタリーであれ劇映画であれ、時の流れとともに消え去ってしまう作品が大多数ですが、この冤罪がテーマの２作品が「色あせない、風化しない」まだ“決着がついていない、つけねばならない重要な出来事”として、今後一人でも多くの人にご覧いただけることを期待します。
もちろんほとんどの人が「娯楽」として映画館まで足を運ぶのだろうし「なんで仕事からはなれてほっこりしている時に“冤罪”がテーマの辛気くさい映画見なあかんねん」という方々を少しでも引っ張ってくるために、今日は金監督作品の重要なモチーフの一つである「食べる」、つまり食事シーンに焦点をあててみましょう。
そう。金監督作品においては『花はんめ』では、町内のおばちゃん＆おばあちゃんたちが、どこからともなく寄り合う場所はいつも小さなちゃぶ台。その小さなちゃぶ台をみんなで窮屈そうに囲んでワイワイと、かしましいったらありゃしない。でもみんななんだか楽しそう。『ＳＡＹＡＭＡ』でも石川さん夫妻、まずはなにがなくとも腹ごしらえ。二人の、息があってるんだかあってないんだか素人にはわかりづらい阿吽のユーモラスな食事風景から、次のシーンが展開していくと言っても過言ではない。「ご飯シーンの金（キム）」としてその名をとどろかす金監督（ちとおおげさに言ってます）にとっては、腕の見せどころなのです。
もちろん『夢の間』でも見事に期待にこたえます。巌さんのお姉さんの秀子さんが用意してくれたご飯をぱくつく巌さんを、じっくり腰をすえてカメラは斜め横からひたすら見つめます。黙々と食べる巌さん。あまり美味しそうに食べているようには見えなくて、なのに、なぜかしらなにを食べていてもそこはかとなくユーモアを漂よわせてしまう。これが“キムマジック”。そして、時々秀子さんも一緒に食べるシーンもあるのですが、これが食事の基本形「差し向かい」ではないのです。なぜか巌さんの隣の小テーブルで、距離をおいて会話もなく静かに食べてるという、なんとも不思議な光景。あの森田芳光監督の『家族ゲーム』の「家族全員＆家庭教師の優作さん横一列食事シーン」以来の衝撃でしょう。ふふふ。これを読んでいるあなた。そう。そこのあなたです。このシーンだけでも見たくなってきたでしょう。ははは。私の思うつぼです。ポレポレへＧＯ！
ところでもう少し脱線して、食事シーンといえばＴＶ『傷だらけの天使』のショーケン（萩原健一）さんのオープニング映像ですね。まあ食事というか「おさむちゃん（ｂｙ岸田今日子さん）が朝飯をむさぼり食う」ところを、井上堯之バンドのめちゃカッコイイ演奏にのせて見せているだけなのですが、当時のショーケンのあまりのかっこよさにしびれたなあ。トマト～コンビーフ～魚肉ソーセージ、あとなんだっけ？ むさぼり食うリズムが最高なんですよね！ 瓶牛乳の紙蓋を手ではなく、口でくわえてはずす、というのも当時のおバカな中学男子の給食の時間にはやったものでした。
閑話休題。ここで私は、金作品は決して「辛気くさくない」ということを力説しておきましょう。
たしかに“冤罪”という重いテーマを扱ってはいるのですが、生きることの素朴さと不思議さが肩肘張らずに飄々と描かれています。「巌のあるがままの姿を見て欲しい」という秀子さんの一言に見事に応えた金監督の入魂の一作。ポレポレを皮切りに全国で順ぐりにゆっくりと上映されていきますので、どうぞ皆様、各地の上映会場に足を運んで頂ければうれしいです。
さて、今回、絵文字を使わずに書いてみました。絵文字もリズムのうち、と思っていたのですが、飽きっぽい私。しばらく絵文字を使わずにいってみようかと。
そして今年に入っても相変わらず「ビータ（旅）人生」な私。今年に入って原稿遅れがちで関係各位にご迷惑をおかけしておりますが、がむばりますだす（冷や汗） ［次回３／７（月）更新予定］
村上 好
竹増貞信
ゲッターズ飯田
