王座戦挑戦者決定戦で勝利した永瀬拓矢九段=2024年7月22日、東京都渋谷区
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 注目対局や将棋界の動向について紹介する「今週の一局 ニュースな将棋」。専門的な視点から解説します。AERA2024年8月5日号より。

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 7月22日、王座戦挑戦者決定戦・羽生善治九段−永瀬拓矢九段戦がおこなわれ、114手で永瀬が勝利。藤井聡太王座への挑戦権を獲得した。

「挑戦者決定戦でかなり多く負けてしまっていたので。ここで一つ結果を出すことができてよかったのと。それが王座戦というのは運命というか、そういうものも感じます」

 終局後、永瀬はそう語った。前王座の永瀬は昨年の五番勝負防衛を果たせば5連覇で「名誉王座」の資格を得られていた。しかしそこに現れたのが最強の挑戦者・藤井だった。結果は1勝3敗で永瀬の敗退。王座を明け渡し、藤井の全八冠制覇を許した。

「自分としては内容がよかっただけに悔いが残るシリーズになってしまいました」

 藤井も強いが、永瀬もまた強い。その後の朝日杯決勝では、永瀬は藤井を下して、優勝を飾った。永瀬は藤井の練習パートナーでもあり、最近のスコアは五分ぐらいだという。では前期王座戦では、なにが足りなかったのか。

「私が今のトップ棋士の中で見ますと、精神的に弱い方に入るんですね。藤井さんはやっぱり精神的に強いですし」

 永瀬は精神的に大きなダメージを受け、自身の脆さを自覚した。弱い部分を見つめ直し、逃げずに自分と向き合って、改善を心がけてきたという。そして永瀬は今期のトーナメントを勝ち上がった。

「準決勝で鈴木先生と当たったり、挑戦者決定戦で羽生先生と当たったり。私としては運命的な組み合わせで。最後、藤井さんが待っているという」

 若き日の永瀬にとって鈴木大介九段は「恩師」ともいえる存在であり、羽生は高い壁だった。羽生にはタイトル通算100期の期待もかかっていた。永瀬は強敵を連破して、藤井へのリターンマッチの機会を得た。ファンの目にも、劇的な組み合わせに映るだろう。注目の五番勝負は9月に開幕する。(ライター・松本博文)

AERA 2024年8月5日号

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松本博文

松本博文

フリーの将棋ライター。東京大学将棋部OB。主な著書に『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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