資本主義の限界が方々で叫ばれている。多くの経済学者が独自の論を唱えるなか、注目を集めるのは、なんと哲学者であるマルクス・ガブリエルの資本主義論『倫理資本主義の時代』(ハヤカワ新書)。同じく経済をテーマに物語を描く小説家、榎本憲男氏によるコラムをお届けする。
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資本主義についての警鐘が強く鳴り響くようになっている。ソ連崩壊と中国の改革開放路線によって、資本主義の独り勝ちと思われた短い期間を経て、格差や環境が問題視されるようになり、「本当に資本主義は大丈夫なのか」という声が徐々に大きくなっている。また、成長のために新たな市場を必要とするのが資本主義だが、地球上には市場となる場所はほぼすべて開拓されてしまった、という警告もある。
哲学者のロックスターが描く資本主義の「真の姿」
ことしの6月、『倫理資本主義の時代』(ハヤカワ新書)という書物が出た。本書は、「経済的利益は道徳的に優れた行為の結果として得られる」という考え方に基づいて新たな資本主義へのギアチェンジを促す書だ。著者は経済学者ではなく、「哲学界のロックスター」マルクス・ガブリエル。
資本主義は大丈夫かという問いに対しては、「いや、もう無理だ」と資本主義に異を唱える派と、「いろいろ問題はあるが資本主義でいくしかない」という消極的な賛成派が目立つ。しかし、現代を代表する哲学者は「資本主義、超オーケー」とばかりパワフルに肯定し、新たな希望を指し示す。その内容をごくごくかいつまんで紹介し、その魅力と鋭い洞察にうなずきつつ、わだかまる疑問を表明するのがこのコラムの目的である。
まず先に、本書の骨子を要約するのだが、これに際しては、著者の文章がかなり難渋でわかりにくいので、厳密な引用ではなく、僕の言葉に大胆に翻訳して記すことにする。ただし、僕は経済も哲学もともにアカデミックな訓練を受けていないので、かなり乱暴な要約や、ひょっとしたら誤読もあるかもしれない。また、かっこ内は、引用ではなく、読みやすさを考慮して付けたものであることもお断りしておく。