南果歩さん(撮影/植田真紗美)

父の会社倒産で「風呂無し」の家に引っ越し

 そんな幸せに包まれた家族に異変が訪れたのは、南さんが7歳、小学2年生のときだった。父親の会社が倒産したのだ。家は人手に渡り、風呂無しの文化住宅に引っ越すことになった。そのとき、父親と母親も別々に住むようになったという。

「私たち5人姉妹は母親に育てられました。子どもだったので、家庭の事情というのはぼんやりと分かっているだけで、それを悲観したりはしていませんでした。与えられた環境が自分の環境だったので、順応していたと思います。子どもってたくましいので、それなりに楽しいことや面白いことを見つけていくんですよ。ただ、人の気持ちを深読みしたりと、多感な少女になったのは家庭環境によるものだと思うので、それは今、お芝居をやるうえ上で大いに役に立っていると思います」

 南さんがデビューするきっかけは、映画「伽椰子のために」のヒロイン役のオーディション情報が新聞の夕刊に載っていたのを見つけたことだった。

「当時、私は19歳で、桐朋学園芸術短期大学に在学中でした。演劇学生だったんですが、オーディション記事を見つけたとき、『私はこれをやるために生まれてきたんだ』という運命を感じました」

「伽椰子のために」は李恢成氏の小説が原作で、繊細な人の心を描くことで定評のある、小栗康平監督の作品。オーディションでは、詩人の中原中也の詩集を渡され、好きな詩を読むように指示されたという。南さんは「サーカス」という作品を読んだというが、結局、2200人の応募者の中からヒロインに抜擢された。そのときの家族の反応はどうだったのか。

「とても驚いていましたね。私は何かを人に相談して決めるタイプではなかったので、合格して映画の主演が決まった後に、母や姉たちに事後報告で知らせました」

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自身が在日3世であることを告白