雅子さまが選んだジャケットは、量産品のためにオーダーメイドよりも手ごろな価格だが、日本のデザイナーや縫製職人らのこだわりや思いの詰まった一着だ。
辻さんによれば、化繊素材ではあるが、ジャケットの袖や背中部分、ウエストのラインといったドレープ感が美しく出る布地が用いられているという。
「生地はまさに生き物です。同じ品番の布地でも、異なる時期に染められた釜(ロット)であれば、まるで違う『顔』を持ちます。この生地は、ドレープが美しく出ますが同時に、縫製には高度な技術が必要で、とても仕立てが難しい」
経済産業省の統計によると、22年に日本で販売された衣料品のうち、98%以上が海外で生産された輸入品だ。辻さんは、そうした時代だからこそ、量産品であっても日本のブランドや高い縫製技術を守っていきたいと話す。
海外訪問でも上質な量産服からプチプラまで
英王室のキャサリン妃が公務でファストファッションを愛用し、共感を集めているように、令和に入り皇室の姿も変わってきた。
秋篠宮家の次女佳子さまがペルーやギリシャを訪問した際には、4790円のジャケットや2990円のニットといった「プチプラ(プチ・プライス)」の既製品服が話題となり、注文が殺到した。
雅子さまは英女王の国葬のために、いくつかの候補の品のなかから日本の小さな縫製工場の技術と誇りの詰まったジャケットを選んだ。
今回、国賓として招待された両陛下は、英国で歓迎行事や晩餐会などに出席される予定だ。古き良き皇室らしいデザイナーによる仕立てのドレスから上質な「吊るし」の既製服、ときには「プチプラ」やファストファッションまでを柔軟に手にとるのが、令和の時代の皇室のスタイルのようだ。
(AERA dot.編集部・永井貴子)