子どものころ、父によく「誰かに一つ、二つやってもらいたかったら、相手に10のことをしなさい」と言われた。いま、その通りだな、と思う。欲しい、欲しいではなく、誰かに何かをしてあげてこそ、互いに価値を共有できる。人が相手だけでなく、社会に対しても同じだ。もちろん、妻にもそうだ。

 営業で「午前さま」続きで、妻が大好きなミュージカルやコンサートへ一緒にいく機会は、なかなかなかった。彼女には相手をしてもらえる親族や友人が地元にいただろうが、ずっと、心残りだ。メルボルンへも、米ケンタッキー州へも単身赴任。2022年1月にキリンビール社長に就任した後も、多忙は変わらない。

『源流Again』の前日も広島から京都へいき、得意先と会って回る。『Again』の後も、京都で取引先と会った。毎週、こんな日程だ。

 でも、「妻にいつか穴埋めしたい」との思いは、『源流』からの流れとともに続く。何しろ妻は「YOUを第一に」のなかでも、第一の存在だからだ。(ジャーナリスト・街風隆雄)

AERA 2024年7月29日号