森山未來さん(撮影/写真映像部 佐藤創紀  ヘアメイク/須賀元子 スタイリング/杉山まゆみ )

猫はぼーっとしてると思ったら急に

――主人公である37歳の化け猫、あんずちゃんを演じた。どのような身体表現をしたのだろうか。

森山:朴訥と立っているほうが原作漫画のイメージには合うかなと思ったので、あまり動かないようにした時間が多かった気はします。ただ、動ける瞬間を探してはいました。

 たとえば、あんずちゃんがかりんちゃん(五藤希愛)と一緒に東京に出てきた時。よっちゃん(佐藤宏)に取りついた貧乏神(水澤紳吾)を見つけて追い払うんだけど、次にかりんちゃんに憑(つ)こうとすると、一度端に連れ込んで、ジャンプキックして弾いたんだっけかな。相手が水澤さんだからそうしたくなっただけかもしれませんが(笑)、はぼーっとしていると思ったら、急に動き出す時があるでしょう。自転車を盗まれた後にふすまを包丁で刺して走り回るシーンは、深夜、猫が突然家の中を走りまわるのをイメージしたし、猫ならではの俊敏性は意識しました。

――「声の演技」で心がけたことはあるのだろうか。

森山:声は声帯の振動という意味では身体的で、テンポ感や高低差の出し方における技術は確かにあると思っています。今回、やっていることは本当に実写だったので、特別な意識はしていませんが、声のプロフェッショナルの声優さんではなく、僕にオファーをいただくということは、既存の声優さんが持っている技術とは違う、ある種ずらした声の表現を求められているということ。そう捉えて臨みました。

表現し続けることが最重要

――国内外でダンサーとして活躍する一方で、映像作品の監督や振り付け、演出を務めることもある。ボーダーレスな活動を続けている。

森山:自分の活動に線引きをしていないんだと思います。目の前の人が僕について何か特定の肩書きを想像するならそれでいいし、僕自身、「役者だから」とか、「ダンサーだから」という感覚は基本的にはないです。自分の興味のあることを面白がってやっていけたらいいと思っています。これはたくさんの出会いや環境によって自然とそういう考え方になっていったのかもしれませんし、もしかしたら先天的、遺伝的なものもあるのかもしれません

 能や落語のように60〜70代にならないとどんな表現者か評価できないという世界もあれば、30代半ばには引退を考えるアスリートの世界もある。舞踏家には104歳まで活動した人もいます。その時々でできることとできないことは変化していきますが、常にその時やれる最大限を考えていけばいい。自分にとって最重要なのはパフォーマーであり続けること、表現をし続けることです。

(構成/ライター・小松香里)