名門校・筑波大学附属小学校の桂聖教諭と新進気鋭の女流書道家・永田紗戀さんによる、新しいひらがなの本『なぞらずにうまくなる 子どものひらがな練習帳』(実務教育出版)が、多くの小学生や保護者、学校関係者などから人気を集めている。
「もっとうまく書けるようになってほしい!」。楽しいイラストレーションと簡潔なポイントで無理なく身につき、そんな親の願いをかなえてくれる本なのだ。
「練習方法さえきちんとしていれば、すべての子どもたちがひらがなをきれいに書けるようになります」という桂教諭に話を聞いた。
■きれいなひらがなを書く
小学校入学時の段階で、ひらがな自体はほぼ書けるようになっている。しかし、まだ完成されたものではなく、あまり上手ではない。1年生は文字学習のスタートでもあり、まずは「きれいなひらがなを書く」という目標を持たせ、子どもの意識を変えることが大切なのだという。
そのためには、「見て書く」「イメージして書く」「論理的に書く」という三つのステップがある。これには、桂教諭の指導経験と研究実績の効果が生かされている。この本のタイトルに『なぞらずにうまくなる~』とつけたのには理由がある。子どもは、なぞり書きが嫌いなのだ。薄い灰色の字からはみ出すと注意され、頭を使わない単純作業だからだ。お手本の字を見ながら真似る写し書きは、なぞり書きよりも難しい。どこから書き始め、どこで曲げ、どちらが長いかなど、頭を使うことになる。つまり、写し書きは、字形の位置関係を論理的に考えながら書くトレーニングなのだ。
論理的に考えながら写し書きをすると、字形は整ってくる。しかし、鉛筆の動かし方は、まだ不十分である。はらう、とめる、はねる、右上がりなど、イメージしながら書くことも必要なのだ。永田さんは、例えば「く」の書き方を「ながーいすべりだい。しゅーっ。ストップ。しゅーっ。ゴール♡」のように擬態語・擬声語を用いながら、冒険物語風にした練習を取り入れている。従来のひらがな練習帳とは異なり、子どもが楽しみながら取り組めることが特徴である。
ただ、それらだけで完全に身につくわけではない。あえて変な字形を見せ、子どもに「間違い探し」をさせることも効果的なのだ。「高さが違う」「そろえる」などと、子ども自身が発見するようになる。正しいことをそのまま正しく学ぶことは、身につきづらいこともある。間違いという仕掛けをつくることもポイントだ。つまり、教えたいことを子どもから引き出すという手法である。
■三つ褒めて、一つ注意する
ひらがなをきれいに書くには「書く力」とともに、実は「見る力」をつけることが大切なのだという。「冒険物語風の話が見える力」「字形の位置関係が見える力」をつけることである。『なぞらずにうまくなる 子どものカタカナ練習帳』(実務教育出版)という続編もあるが、そのことはカタカナ、そして漢字にもつながっている。
子どもが初めて慣れ親しむ文字は、ひらがなである。ただし、読むことと書くことは異なる。ひらがなをバランス良く書くのは、実は漢字よりも難しいのだ。
最後のポイントは、親にある。まず、楽しい雰囲気づくりを心掛ける。親のイライラした表情や態度に、子どもは敏感なのだ。ピリピリと張りつめた空気感が漂うと、子どもは叱られないように萎縮し、のびのびとひらがなを練習することはできなくなってしまう。練習は楽しいもので、うまく書けるようになりたいと子どもが思えるよう、親がリラックスすることだ。
練習が終わったら、良く書けたところを褒めてあげる。親は「三つ褒めて、一つ注意する」程度にしておくこと。注意点が多いと、子どもは書くことを嫌がってしまう。最初はできないことが当たり前なので、少しずつできるようになっていく過程を楽しんでみてはどうだろうか。どのような子でも、劇的にきれいに書けるようになるのだから。(朝日新聞デジタル &M編集部 加賀見 徹)
『sesame』2016年3月号(2016年2月5日発売)より
http://publications.asahi.com/ecs/detail/?item_id=17773