■理学療法士らも治療参加に意欲

 状況も大きく変化した。以前は知る人ぞ知る存在だった「めまいリハビリ」の内容が、最近はユーチューブでも視聴できる。加えて専門学会の「基準」で、具体的な訓練方法のガイドラインが初めて明示された。

 めまいリハビリは、1920年代の英国で始まったのが嚆矢とされている。40年代には米国で普及し、欧州や南米、オセアニアにも広がった一方で、大きく後れを取ったのが日中韓などの東アジアだった。

「日本では片方の前庭が悪くてももう片方でカバーできるとか、薬で治せるという考え方が支配的だったためだと言われています。わかっている医師はいても、時間的にも場所的にも制約だらけの外来診療では難しかったのも事実。ですが近年、米国などでリハビリ効果を裏付けるエビデンスの発表が急増したこともあり、学会として取り組む機運も高まってきたということです」(伏木医師)

 米国のめまいリハビリは、医師ではなく、理学療法士が担い手になっている。作業療法士、言語聴覚士、視能訓練士と並ぶ「リハビリテーション職」の一つだ。日本でも2021年には「日本前庭理学療法研究会」が発足した。

 同研究会の副理事長・群馬パース大学リハビリテーション学部理学療法学科の加茂智彦助教(36)の話である。

「理学療法士の仕事は脳卒中患者などの体性感覚(皮膚感覚および筋や腱、関節等に起こる深部感覚から成る)が中心なのが現状です。めまいリハビリが実際に効果的で、医学的にも確立されつつある今、私もぜひ取り組んでいきたい。研究の余地がまだまだあるし、もっともっと普及させて、困っている人たちを助けられたら嬉しいです」

 私の2度の前庭神経炎は、めまいリハビリの甲斐あって、昨年中にほぼ完治した。同じような症状に苦しむ仲間たちの救いになればと思い、今回の取材を思いついた私はもちろん、かつての恩人にも会ってきた。

「めまいというのは、実は病名の特定が非常に難しい。でも、めまいリハビリが前庭障害の大部分に効くのは間違いありません。副作用もないし、お悩みの方は、ぜひ相談にいらしてください」

 現在は東海大学医学部耳鼻咽喉科の准教授になっている五島医師は力強く語った。私も二度とあんな目に遭うのは御免だ。

週刊朝日  2023年4月14日号

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