週刊朝日 2023年4月14日号より
週刊朝日 2023年4月14日号より

フィギュアスケートの選手は、あんなに回転しても目を回さないでしょう? 訓練のたまものですよね。あれと同じ理屈で、やり過ぎれば目を回しそうな動きを何度もやることで、小脳を慣れさせ、覚えこませるわけ」

 五島医師は当時、独立行政法人国立病院機構東京医療センターの耳鼻咽喉科に在籍。めまいに苦しむ患者を5日から1週間ほど入院させ、10~20人の集団でめまいリハビリによる治療&講習を重ねていた。

 受け容れた患者は年間平均で250人程度。私は第61期生だったという。

 めまいリハビリのメニューは、まだある。【3】足を揃えて立ち、床に接する足の裏の感覚に意識を集中させながら、目を瞑って30秒~1分間、体勢をキープする。

 さらにまた、閉眼と意識の持ちようは同様に、【4】継足(つぎあし・片足の踵[かかと]と、もう片方の足のつま先を継ぐ体勢)、【5】片足立ちで、それぞれやはり30秒~1分間。転倒すると危ないので、【3】は肩幅ぐらいの開脚でも構わないし、【4】【5】なら手や指を壁やテーブルに添えて支えてもOK(以上、バランス訓練)。

 最後に歩行訓練だ。目は開けたまま【6】継足で、【7】首を左右に振りながら、【8】首を上下に振りながら、それぞれ数メートルずつ歩く。

【9】普通に足を踏み出し、2歩目で着地した足の踵を起点に方向転換する。右回転と左回転の両方を2度ずつ程度(カラオケで「愛人」や「つぐない」を歌うと流れるテレサ・テンの本人映像とよく似た動きなので、私は「1・2・テレサ」「2・2・テレサ」なんて掛け声で気合を入れている)。

 概ねこうしたエクササイズを積み重ねて私は、頑固な「めまい」を克服した……はずだった。ただ、退院の際に五島医師から念を押された、

「めまいリハビリは死ぬまで続けてくださいね。でないと、病気によっては、ぶり返しちゃうかもしれませんよ」

 という言葉を、あまり真剣に受け止めていなかった。だから「めまい」がなくなって3年ほどが経ち、喉元過ぎて熱さを忘れると、いつしかサボりがちに。実際、ひと通りこなしても10分と要しないめまいリハビリだけれども、特に外出先ではなおのこと、かなりメンドクサイ営みではある。

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