兵馬俑(写真:ロイター/アフロ)
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 映画『キングダム大将軍の帰還』が盛り上がりを見せている。同作では、吉川晃司さんの演じる趙国の総大将・龐煖(ほうけん)の強さも話題となっている。

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 龐煖は、史実においても秦軍に立ちはだかり、大きな脅威を与えている。映画『キングダム』の中国史監修を務めた学習院大学名誉教授・鶴間和幸さんは、その最大の脅威として、「龐煖が率いた別動隊による事件」を挙げる。新刊『始皇帝の戦争と将軍たち ――秦の中華統一を支えた近臣集団』(朝日新書)から一部抜粋して解説する。

【『キングダム』の内容にかかわる史実に触れています。ネタバレにご注意ください】

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龐煖率いる別働隊の脅威

 五諸侯の合従軍とは、始皇六年の韓・魏・趙・衛・楚の五国から成る合従軍であり、秦の領内を深く攻めたが、合従側の失敗に終わったと記録されている。秦始皇本紀の記事は秦の側の史料『秦記』に従っているので、当然ながら深刻な事態であったとは記されていない。しかし合従軍の進路を見てみると、秦にとって非常に危うい事態であったようである。

 この五ヶ国の合従軍には別働隊があった。『史記』趙世家には「龐煖(ほうけん)、趙楚魏燕之鋭師、秦の蕞(さい)を攻むるも、抜かず。移して斉を攻め、饒じょう安あんを取る」という記述がある。

 蕞の地は、のちの驪山(りざん)の北麓の始皇帝陵に隣接して置かれた陵邑(陵墓を守る都市)の都市・麗邑の地であった。 

 蕞の原義は「草の集まるさま」であり、まさに驪山北麓の原野の集落であった。龐煖の鋭師がたんなる一集落を狙い撃ちにすることはありえない。おそらく秦王の陵墓の予定地になる情報を得ていたのであろう。合従軍は秦王の陵墓の候補地を攻めたことになる。

 龐煖の率いた鋭師とは精鋭部隊を指すが、四つの国(衛は入っていない)の軍隊を褒めたことばではなく、たんに機動力のある別働隊を指している。蕞の地と寿陵は近く、鋭師と五国軍の本隊とが連携した行動をとり、秦の重要な地を襲撃したのであろう。

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