しかし、この後「無限城の戦い」で、珠世は「誰かを治すために作り出した薬」を、「敵を倒すための毒」として使う。もうひとつの動機、憎しみと懲罰である。鬼として生き、罪を重ねた自分を罰するように、“無惨とともに”消滅することを願う。彼女は無惨に向かって、悲痛な声で叫んだ。

「私はお前とここで死ぬ!!」(珠世/16巻・第138話)

 珠世は「人間化の薬」によって、無惨が恐れていた「人としての死」を彼に突きつける。鬼としての珠世の償いは、ここで果たすことができるのか。長い辛苦に耐え、自分の心を吐露しないままに無惨滅殺にすべてを賭けた、優しく美しい鬼・珠世。彼女の覚悟の深さが、この後に続く「無限城の戦い」で、丹念に描かれることだろう。

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植朗子

植朗子

伝承文学研究者。神戸大学国際文化学研究推進インスティテュート学術研究員。1977年和歌山県生まれ。神戸大学大学院国際文化学研究科博士課程修了。博士(学術)。著書に『鬼滅夜話』(扶桑社)、『キャラクターたちの運命論』(平凡社新書)、共著に『はじまりが見える世界の神話』(創元社)など。

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