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批評家の東浩紀さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、批評的視点からアプローチします。
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たいへんな事件が起きてしまった。KADOKAWAグループの個人情報流出である。
問題の発端は6月8日。ニコニコ動画を含む同グループのサービスへの接続障害が起きた。現在も続いており業務全体に支障が出ている。ニコニコ動画を運営するドワンゴは当初原因をサイバー攻撃とだけ発表していたが、その後攻撃がランサムウェアによるものと認めた。
ランサムウェアとは、標的企業のネットワークに侵入しファイルを暗号化して利用不可能にしてしまう悪質なソフトウェアだ。犯罪者集団はその復元と引き換えに高額の身代金を要求する。今回の事件では同時に大量の機密情報も窃取されており、期限までに身代金を支払わなければデータをばらまくと脅されていた。その脅迫が実現したかたちだ。
犯罪者集団が設定した支払期限は7月1日。データ公開はどうやら日本時間の同日深夜に始まったらしい。公開自体はアクセスの難しい特殊な場所で行われたが、注目が高かったためすぐに匿名掲示板やSNSでダウンロードの報告が始まった。本稿執筆時点(2日)で、従業員の情報だけでなく、正体を隠していたネット配信者の本名や住所、さらにはグループが運営する通信制高校の生徒名簿まで漏れているとされている。
KADOKAWAが被害者であることは疑いない。身代金を払わないのも正しい選択だ。とはいえ今後ガバナンスやセキュリティーが問われるのも避けられないだろう。訴訟も起こるかもしれない。
筆者はKADOKAWAと関わりが深い。ニコ生の公式放送とはサービス初期以来の付き合いだ。
それだけに個人的にもショックが大きい。今後余波がどう広がるのか見通せないが、KADOKAWAには誠実な対応を望みたい。とりわけ重要なのは機微情報が漏れた子どもたちへの加害防止だ。将来ある高校生をネットユーザーのおもちゃにしてはならない。
KADOKAWAグループは前身の角川書店が長い時間をかけて蓄積してきたブランドを背負っている。その信頼を守り抜けるかが問われている。
※AERA 2024年7月15日号
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