今後のシナリオは?

 民主党リベラル派市民のハートをつかんでいるニューヨーク・タイムズ紙は、討論会から24時間もたたない28日夕、社説として「国のためを思うなら、バイデンは選挙戦から去るべきだ」を掲載した。

 しかし、バイデン陣営の反応は逆だった。討論会終了後20分でスマホに届いた支持者向けメッセージはこうだ。

「私(バイデン)がこんなに多くのホラを聞いたのは、これまでの人生で初めてだ。私たちは君らが必要だ」

オバマ元大統領も討論会直後、「5ドル、たったの5ドルでいい」といきなり切り出し、バイデン陣営への寄付を呼びかけるCMをオンラインにアップした。選挙戦を続けていくつもりだ。

 しかし、民主党内ではバイデン氏のヨボヨボのパフォーマンスで支援者や大口寄付者をがっくりさせた状況をどう乗り越えるべきか議論が続いている。今後どんなシナリオが考えられるのか。

 まず、選挙戦から撤退するかどうかは全てバイデン氏ひとりの決断にかかっている。仮に、バイデン氏が撤退を決心した場合、彼に代わる大統領指名候補を選ぶのは、8月19〜22日にイリノイ州シカゴで開かれる民主党全国大会となる。全米50州から正式に大統領指名候補を選ぶ「代議員」約4千人が、これはと思う候補者の誰にでも投票していい「オープン・コンベンション」という形になる。

家族は続投支援を表明

 しかし、複数の候補者がシカゴで最大多数を得るための代議員獲得競争で、混乱状態になる可能性がある。日程は4日間であるにもかかわらず、複数回の投票をすることも考えられる。このため、政治史を研究するリア・ライト・リグール氏は英BBCにこう話した。

「もしも別の候補を立てるなら、バイデン氏は身を引くための(党内の)交渉で、後任を誰にするか最終的な決定権を要求すると思う」

 バイデン氏に代わる候補者としては、カリフォルニア州のギャビン・ニューサム知事や、ミシガン州のグレッチェン・ウィットマー知事、ペンシルヴェニア州のジョシュ・シャピロ知事らに期待が集まる。ウィットマー知事は、大統領を目指す政治家がよく手掛ける方法として自伝『トゥルー・グレッチ』を有名出版社から出したばかり。一方、ニューサム知事は討論会直後、バイデン氏の年齢よりも討論会の「中身」が大事だと記者団に語っている。

 バイデン氏の家族は、続投を全面的に支援すると公表。しかし、鍵を握るのはジル夫人かもしれない。米メディアによると、討論を終えた夫にこう声をかけた。

「すごくよくやったわ。あなた、全部の質問に答えたじゃない」

 しかし、有権者が求める大統領は、司会の質問に答えるだけでは資格がない。テレビの画面を通して有権者を惹きつけるパフォーマンスと、ライバルより優位だと認めさせる語りや論調が必要だ。

ニューヨークのルーフトップバーでは複数のテレビ画面が設置され、数百人の若者が大統領候補討論会を見守っていた(撮影・津山恵子)

「老老対決」にうんざり

 討論会の後半で、筆者の記者ノートを見た若い男性が話しかけてきた。

「自分はバイデンもトランプもすごく気に入らない。なんで、高齢の彼らの1人を選ばなければならないんだ!」

すると、彼の友人や周りにいた若者が口々に同調した。若い人は、20年に引き続き高齢者による「老老対決」にうんざりしている。

 トランプ氏の支持率は、激戦州と呼ばれる7州のうち6州でバイデン氏をリードしている(政治ニュースサイト「リアルクリアポリティクス」による)。トランプ氏が有罪評決を受けた被告であるにもかかわらず、「もしトラ」が「ほぼトラ」となるかもしれない瞬間を米市民はテレビで目撃した。

 万が一、バイデン氏が当選しても精神面・健康面での不安がつきまとう。トランプ氏が勝利すれば、民主主義の旗振り役とされてきた米国が、独裁主義者で排他主義者、被告をリーダーに選んだことになる。最大の「敗者」は有権者かもしれない。

(ジャーナリスト 津山恵子〈ニューヨーク〉)

※AERA 2024年7月15日号

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