ニューヨークのルーフトップバーで数百人の若者が討論会を見守る。関心は「人工妊娠中絶問題」「学校の安全」「ガザでの戦争」と多岐にわたり真剣に見入る(撮影・津山恵子)
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 バイデン氏にとって「最悪の夜」と言われた初の大統領候補討論会。トランプ氏の気炎はあがるばかり。「異常な夏」が幕を開けた。AERA 2024年7月15日号から。

【写真】トランプ氏VSバイデン氏 「老老対決」に有権者はうんざり

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 6月27日(米東部時間)、ニューヨークのルーフトップバーには数百人が集まっていた。店内には複数のテレビ画面が設置され、11月の米大統領選で再選を目指すバイデン大統領と、返り咲きを狙うトランプ被告・前大統領の、今年初のテレビ討論会が映し出されていた。

 共和党のトランプ氏が「2021年1月6日(の連邦議会議事堂襲撃事件)では、私は何もしていない」と発言すると、「嘘だ!」「事実じゃない!」と若者たちが叫ぶ。一方で、「アハハ!」と大声で笑い、トランプ氏を応援するかのように拍手を送るグループもいる。

 討論会観戦パーティーが開かれたのは、デートスポットとして最も人気のあるニューヨークで最大のルーフトップバー。ニューヨークは民主党を支持するリベラル派の牙城だが、そこにトランプ支持者がいたことで、バーは異様な雰囲気になった。冒頭、トランプ氏が演台につくと、あちこちから口笛と大きな拍手が思いがけず起きたためだ。

 討論会の結果はバイデン陣営にとって「最悪の夜」。時間は90分あるのに13分ほどでバイデン氏が言葉につまった。バーでも「オー! アハハ!」とからかう声がトランプ派から上がる。

トランプ氏との年齢差は3歳だったのに「30歳の差があるように見えた」と米メディア。バイデン氏は舞台から降りる際もジル夫人の手が必要だった(写真・AP/アフロ)

67%がトランプに軍配

 バイデン氏は声がかれていて(後に風邪と説明)、左目はこすったかのように小さく、トランプ氏が話している間は、下方ばかり見ている。自身が話すときはセンテンスを終わらせることができない。辻褄(つじつま)が合わない。トークのバトルである討論会でやってはいけない「失敗例」のオンパレードだ。トランプ氏は、「一体何を言っているんだか分からない。自分でも分かっていないんじゃないか」とからかい、20年大統領選挙でバイデン氏が勝利した結果は「不正」だったなどという陰謀論を展開、司会を務めたCNNのアンカーらはファクトチェックを一切せず進行した。

演説の際、両手を左右によく動かすトランプ氏の癖は、トランプ派の目には「スタミナがあり、大統領らしい」と映る(写真・AP/アフロ)

 90分の制限時間が終わらぬうちに、トランプ陣営からスマホに支持者向けのメッセージが届いた。

「私が言ったことは全て正しかった。バイデンを撃破した。私が勝った!」

 CNNの世論調査で、視聴した有権者のうち、トランプ氏が「勝利」と答えた人が67%、バイデン氏が「勝利」と答えた人が33%となったが、メッセージはそのはるか前に発信されている。トランプ陣営は、勝利に酔いしれた。

 一方、民主党は大混乱に陥った。一夜明けると「バイデン辞めろコール」、つまり選挙戦から撤退すべきだという声がメディアやSNSにあふれた。

「バイデンは討論会での出来栄えを見直して、選挙戦から撤退するべきだ」(ニューヨーク・タイムズコラムニスト、ニコラス・クリストフ氏)

「頭がいい奴らがそろって、バイデンで討論会を乗り切れると嘘をついて、トライしたということに怒りを感じる」(元ホワイトハウス側近、ニュースサイトAxiosによる)

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