警察は「事件ではない」

 大野さんは99年に襲われた事件以降、非常に用心深くなった。一緒に喫茶店から出る時も周囲をキョロキョロと見まわし、先に出るのはいつも私。地下鉄の駅ではホームの後方に立ち、発車間際に乗り込んでいた。

 それゆえ、大野さんが事故に遭って亡くなるとは信じられなかった。

 大野さんはつい最近まで、

「財務省と取引できる極秘のことを握っているので交渉しているんだ」

 と何人もの人に話していた。

 そして、事故に遭った車は財務省の公用車。現場も財務省から遠くない場所と聞いて、私は背筋が冷たくなった。本当に単なる事故だったのだろうか。

 大野さんをよく知る弁護士も、同じ思いだった。

「政治に、金融に、裏社会に、いろいろなところに首を突っ込んでいた大野さんがあのような事故で亡くなるとは思えない。事件だという気がする」

 大野さんが亡くなって数日後、ご遺族から連絡をいただいた。

「あの日は午後4時くらいに自宅に帰ると言っていた。だが、帰らないのでどうしているのかと思ったら、警察の方がお見えになり、『すぐに支度して病院に』と言われました。駆け付けるともう意識はありませんでした。ただ驚くばかりでした。狙われた、事件だという声も聞きましたが、警察は、事故で事件ではないとのことでした」

 私も捜査関係者に話を聞いたが、

「犯人は、特定の人物を狙った様子はなく、パニックになって暴走したことが事故となった。大野さんがこれまで警察沙汰になったことが何度かある人物であることは把握しているが、事件性はない」

 とのことだった。

 いずれにせよ、大野さんはもう戻らない。ご冥福をお祈りいたします。

(AERA dot.編集部・今西憲之)

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今西憲之

今西憲之

大阪府生まれのジャーナリスト。大阪を拠点に週刊誌や月刊誌の取材を手がける。「週刊朝日」記者歴は30年以上。政治、社会などを中心にジャンルを問わず広くニュースを発信する。

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