風柱・不死川実弥。「柱稽古編」公式HPより (C)吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable

不死川実弥の矜持

 風柱として、不死川実弥は、「人間の力で、自分の力で、鬼に打ち勝つ」という強い決意を持っている。鬼殺隊がどんなに困難な状況であったとしても、彼は弟の鬼化など必要としない。これが実弥の柱としての矜持であった。そもそも弟に守ってもらうような意識がさらさらない。

 母の鬼化を目にしたことがある実弥には、弟の鬼化は、どうしてもやめさせねばならない。そのため、実弥は玄弥の話を聞かない、玄弥のことを徹底的に遠ざけるという方針を取り続けた。しかし、これは実弥の「失敗」だったのではないか。

 竈門禰豆子という先例、玄弥のこれまでの様子を考えれば、玄弥の「鬼化」が極めて希少な特例であることが、実弥ならば理解できたはずだ。しかし、不死川家の長兄としての思いの深さが、その判断を鈍らせる。

不死川実弥の「失敗」

 実弥は母の事件の時に「優しかった母の鬼化」に絶望を感じたはずだが、同時に、たとえ鬼化しても自分たち子どものことを忘れないでいてほしかった、という思いがあったはずである。だからこそ、鬼でありながら生きることを許された禰豆子に、やるせない思いを持ったのだから。

 今、彼の目の前にいる弟・玄弥は、鬼化の段階にあっても「人としての思い」を忘れていない。これは実弥が抱いた母への絶望を、玄弥が払拭してくれたことを意味する。玄弥は鬼に侵食されても「人間として」強い意志を保ち続けることができたのだ。実弥はそのことに気づかねばならない。そして、玄弥の話を聞いてやる必要があったはずだ。それをしようとしなかったのは、柱としての普段の実弥とは違う判断力の欠如ではないか。兄だからこその思いがそこにあったのではないか。

 そして、この出来事は、今後の不死川兄弟の身に起こる悲劇をさらに加速化させてしまう。

 実弥の怒り、玄弥の悲しみ、そして不死川兄弟の不器用な愛情がどうなるのか、今後のアニメの展開を見守りたい。

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植朗子

植朗子

伝承文学研究者。神戸大学国際文化学研究推進インスティテュート学術研究員。1977年和歌山県生まれ。神戸大学大学院国際文化学研究科博士課程修了。博士(学術)。著書に『鬼滅夜話』(扶桑社)、『キャラクターたちの運命論』(平凡社新書)、共著に『はじまりが見える世界の神話』(創元社)など。

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