AERAの連載「2024パリへの道」では、今夏開催されるパリ五輪・パラリンピックでの活躍が期待される各競技のアスリートが登場。これまでの競技人生や、パリ大会へ向けた思いを語ります。前回に続き、二刀流ハードラーの慶應義塾大学體育會競走部主将、豊田兼選手のインタビューを掲載します。
【写真】もはや10頭身以上?身長195センチ、長い手足を生かす二刀流ハードラー・豊田兼
* * *
110mハードルと400mハードルの2種目でパリオリンピック出場を狙う豊田兼。両立が困難なこの両種目をこなす陸上界の「二刀流」は、ユニークな背景を持つ。
慶應義塾大の4年生である豊田は、フランス人の父と日本人の母の間に生まれた。
「母が小学校の時に陸上を勧めてくれました。家の中では、父がフランス語で話しかけてきますが、時と場合によっては日本語で返したりします」
家の書棚には本があふれ、子どもの頃から自然と読書に親しんだ。
「好きなのはフランスのミステリ作家、ピエール・ルメートル。ルメートルの作品は、物語の推進力があります。でも、ハッピーエンドというわけではなく暗いんですけど(笑)。それもまたフランスっぽくていいと思っています」
ルメートルといえば『その女アレックス』が日本国内でもミステリランキングで軒並み1位を独占したが、豊田は他の作品にも親しんでおり、ひとしきり、ルメートルの話題に花が咲いた。映像作品について尋ねると、ドラマで印象に残っているのは、ネットフリックスで配信された「ルパン」。やはり、フランスだ。
数々の小説、映像作品に触れてきたせいだろうか、豊田がレースを語るときには、他の選手にはない言葉が用いられる。たとえば110mハードルについてはこんなふうに。
「110は速度逓減(ていげん)が少なく、高校から大学にかけてはこちらの種目の方が好きでした。10台のハードルが設置されますが、後半はハードリングが詰まり気味になります。そこを刻み切る速度感が好きです」
すでにオリンピックの参加標準記録を突破している400mハードルの方はどうだろう(6月27日から新潟で行われる日本選手権で優勝すれば代表内定となる)。
「こちらも10台のハードルを越えていきますが、後半の6台目から8台目あたりがきつくなってくる区間です。そこでどれだけ“タメ”が残っているか。自分は2年生のときまで前半飛ばしすぎて、後半に余裕がなくなっていましたが、いまはどれくらい余力が残っているか、把握できるようになってきました」