テレビタレントのような芸能の仕事には正解がない。自分のパフォーマンスがうまくいったかどうかを判断する明確な基準も手段もない。

 長い間ライブを中心に活動してきた芸人が、テレビに出て最初に戸惑うのは、目の前に観客がいなくて反応がわからないことだ。収録中にはウケている手応えがないので、不安で仕方がない。

 でも、ウーバーイーツの配達の仕事には、注文されたものを届けるという明確な目的があり、自分が役に立っていることをダイレクトに実感できる。そこに原初的な労働の喜びがあるのだろう。

 もちろん、若林が労働の喜びを純粋に味わえるのは、彼がそのアルバイトをお金を稼ぐ手段として考えていないから、というのもある。

 生活費を稼ぐために仕方なくウーバーイーツの仕事をやっている人は、若林と同じような喜びを得られるかどうかはわからない。そういう人にとっては、その仕事こそが退屈なルーティンワークであり、楽しいとは思えないのかもしれない。

 働くことの楽しさは働くことが義務になった瞬間に見えづらくなる。働くことの権利を行使すること。働いても働かなくてもいい状況で働くこと。逆説的だが、これこそが働くことから自由になるための手段なのだ。

 誰でも気軽に始められるアルバイトに心からの喜びを感じている若林は、普通の人よりも幸せなのか、それとも不幸なのか。喜々としてバイト体験を語る若林からは、芸能の仕事の知られざる苦労の一端が伝わってきた。(お笑い評論家・ラリー遠田)

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ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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