来春の北海道新幹線開業まで、あと100日を切りました。在来線と共用の3本レール、厳寒期の雪や氷など、北海道新幹線ならではの“強敵”と闘いながら、日夜、試験走行が繰り返されています。そんななか、先ごろ、除雪車や確認車などの保守車両が公開されました。除雪車には3本レール専用の排雪板が取りつけられるなど、そのどれもが特別仕様です。さらに、高架橋やレールの切り替えポイントにも、北国ならではの工夫が凝らされています。
この記事の写真をすべて見る3本レール専用の 「除雪車」。「入換動車」 や 「確認車」 にも排雪板を装備。
《除雪車》
北海道新幹線は在来線(貨物列車)と線路を共用します。新幹線のレール幅は1435mm。一方、在来線は1067mmと、その幅は大きく異なります。そのため、往路、復路、それぞれレールは3本ずつで構成されている部分が多く、青函トンネルを含む約82kmが3本レールです。今回導入された除雪車には、車両の前方に大きなフランジャー(鉄板)がついていて、これで雪をかきわけます。フランジャーには、3本のレールとレールの間に積もった雪を取り除くことができる独特の切り込みが入っていて、ほかの新幹線では例がありません。また、車両後方にはロータリーが装備されていて、前方でかきわけた雪を、回転する羽で線路脇にはね飛ばします。
《入換動車》
北海道側で新幹線の編成を分割して定期検査を行うことから、車両移動用に導入されました。JR西日本の車両をモデルにしていますが、新たに排雪板を取りつけ、逆に、運転室の冷房は外しました。色は北海道新幹線と同じで、グリーンの車体に紫のラインが入っています。
《確認車》
レールの上に落ちているものがないか、始発前に新幹線が安全に走行できるように確認するのが確認車です。時速200km以上の区間だけの走行ですが、この車両にも大きな排雪板が装備されています。落下物の確認と除雪を一気にこなすことができます。
《架線延伸車》《高所作業車》
どちらも新幹線と同じ色合いで、グリーンの車体に紫のラインが入っています。
「雪を貯める」、「雪を落とす」。高架橋には2つの工夫が。
《高架橋上に雪を貯める「貯雪式」》
高架橋で、レールが敷かれている部分は路盤と呼ばれ、雪の降らない地方では、路盤が橋の底面から最低で0cmのところもあります。しかし、雪の多い北海道新幹線では0cmでは冬は運行できません。そこで、路盤の高さを30cm~80cmほど底上げして、雪対策をとっています。貯雪式では、除雪車が除雪した雪や新幹線がはね飛ばした雪を、高架橋のなかの線路脇に貯めておくことができ、貯まった雪は日光で解けることが想定されています。高架橋の64%、およそ31.6kmが貯雪式です。
《高架下に雪を落とす「開床式」》
残りの36%は、橋の底面が格子状になっています。除雪された雪やはね飛ばされた雪がそのまま高架下に落ちる構造で、開床式と呼ばれています。建設費は安いのですが、橋の底面が開いているので騒音が大きくなり、しかも、周囲に雪をばらまくため、雪を落としても支障のない山間部などに設置されています。
エアジェット式でポイントの氷雪を吹き飛ばす !! 新幹線では、はじめての採用。
新幹線と在来線のレールを切り替えるポイント(分岐器)にも、北海道ならではの工夫がされています。
北海道新幹線のポイントは10カ所。それぞれに屋根(スノーシェルター)を設けて降雪の影響を抑えますが、これは、新幹線の本線用では、北海道がはじめての設置です。
さらに、列車から落ちた雪や氷の塊がポイントに挟まらないように、レールそのものにも仕掛けがあります。
まずは、エアジェット式除雪装置。ポイントに、圧縮した空気を吹きつけて、雪や氷を吹き飛ばします。新青森より南では、高圧の温水を吹きつけていますが、北海道のような気温が低い厳寒の地では、温水だけでは溶けきらないことも考えられます。そこで採用されたのが、エアジェット方式です。この方式の原形は現在、北海道の在来線101カ所で使われているので、技術の実績があります。
また、ポイントの下にはコンクリートで箱型の空間(ピット)を設け、そこに雪を落としこみます。ピットの底には電気融雪マットが敷いてあるので、エアジェットで吹き飛ばした雪を溶かすことができます。このピット方式は、96年にJR北海道が開発したもので、現在、在来線で63カ所に設置されています。
スノーシェルター、エアジェット式ポイント、ピット式ポイント、これらはどれも、新幹線で採用されるのは、北海道新幹線がはじめてです。
《参考:北海道新聞2015年12月16日号「走る最先端 北海道新幹線の安全対策(2) 雪との闘い」》
3つの大きな “壁” と闘う北海道新幹線。
北海道新幹線には、はじめから大きな“壁”がありました。
まずは、青函トンネル内の風圧です。トンネルの中を新幹線が高速で通過するときの風圧は大変大きく、すれ違う貨物列車には多大な影響を与えます。この影響を最小限にしようと、今年の10月からは、トンネル内ですれ違う本格的な訓練が始まりました。
また、トンネル内は在来線との共用なので、3本レールの区間が長いことも、“壁”の一つとしてあげられます。
さらに、厳寒の地で新幹線を走らせること…。雪の多さからいったら、函館はそれほど大雪の降る土地ではありませんが、気温に関しては、今までの新幹線にはない低さです。
これら3つはどれもが、北海道新幹線に立ちはだかる大きな“壁”ですが、一つ一つをクリアするために、日々、大変な努力がなされています。
H5系の北海道新幹線。車体の色は、全体がグリーンで、中央のラインは、ラベンダーやライラックをイメージした紫です。今回ご紹介した保守車両や装置は、新幹線としてははじめてのものばかりです。平成42年度末(2040年度末)には、北海道新幹線が延長し、新函館北斗-札幌間の開業が予定され、地元はますます盛り上がりを見せています。開業は来春の3月26日。その日に向けて、北海道新幹線の準備は最終段階へと入っています。